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長月(13)

 ******  先週末から心配されていた台風も逸れて、爽やかな晴天に恵まれた9月第2週の土曜日 。  いよいよ学祭当日を迎えた。  学祭に先立ち、二日前にオープニングセレモニーが行われたが、一般公開は今日だけだ。  前日は終日準備に追われて、疲れもピークのはずだが、学祭はその名の通りお祭りだ。みんな朝からテンションが高い。  翼も朝早くから学校に来て例のメイド服に着替え、今は女生徒に言われるまま、おとなしくヘアメイクをしてもらっている。  試着した時に意見が分かれたブラは、本人の好きにして良いということだったので、翼はもちろん着けていない。 「なぁ……あんまり濃いくせんといて……」  下地とファンデーションを塗っただけで、顔がなんだか重く感じる。  アイシャドウを塗るから目を閉じてと言われて、段々と不安になってきた。 「大丈夫、そんなに濃いくしてへんよ。翼くん、元が可愛いから、薄化粧でオッケーやもんね」 (可愛いとか言われても嬉しくないんやけど……) 「まつ毛も長いから、ちょっとカールしてマスカラも軽く塗るだけで……うん、やっぱり可愛いわー」  最後は薄いピンク系の口紅の上にグロスを重ね塗る。 「な、なんかヌルヌルする……」 「あ、舐めたらあかん。せっかく綺麗に塗れたのにー」 (女の子って大変やな。こんな暑苦しいもんせなあかんなんて……)  そう思いながら、翼は周りを見渡した。  開場まであと30分くらい。忙しなく準備に追われて走り回っているクラスメイト。  そして、翼と同じく、椅子に座ってメイクをしてもらっているメイド役の男子の姿もある。  ぱっと見た感じでは、誰が誰なのか判別つかないくらいには化けている。  鏡が無いので、今自分の顔がどうなっているのか全く分からないのが、翼は不安で仕方なかった。 「はい、じゃああとはー、ヘアね。私の好みで翼くんには、ざっくりゆるふわ三つ編みでいくよ」  そう言って、女生徒が翼に見せたのは、ゆるくウェイブしているエクステ。  色は、翼の今の髪色に近い、光の加減でブラウンを感じるナチュラルブラック。 「それ、三つ編みちゃうやん」 「これをね、地毛に馴染ませるように付けて、三つ編みするねん」  女生徒は、翼の髪をクリップやヘアゴムで、器用にブロッキングし、そのエクステをパチンパチンと止めていく。  ブロッキングした髪をエクステに被せるように馴染ませて、それから三つ編みを編んでいく。  毛の量がたっぷりあるエクステを、ゆるくふんわりと編み、最後に手でほぐせば、女生徒の言った通りの、ルーズな感じの大きめざっくりな三つ編みヘアに仕上がった。

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