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長月(18)
「今休憩中? 良かったら、おすすめの所とか案内してくれへん? 実はツレと逸れてしもて、一人でおってもつまらんし、帰ろかと思っててん」
「……え、でもそれやったら……その人の携帯に電話するとかしたらええんちゃいます?」
「それがさっきから何べんも電話やメールしてるんやけど、連絡つかへんねん。ね、折角来たのに、このまま帰るのももったいないから、ちょっとだけでも、どっか面白い所案内してくれたら嬉しいな」
見た感じは、何かスポーツをしているのか真っ黒に日に焼けていて爽やかなイケメンだ。OBかもしれないという翼の勘も当たっているのかもしれない。
さっきメイド姿をジロジロと見られた時は、あまり良い気はしなかったけれど、少し困ったような表情で、柔らかい口調でそう言われると、放っておけないような気もする。
メイド姿ではない普段の翼なら、時間はあるし案内くらいはしていたかもしれなかった。
だけどこの格好では、ちょっと無理だ
「え、いえ、俺はあんまし時間ないから一緒には……あ、でも、3年6組のメイドカフェには、もっと可愛いメイドがたくさんいますよ」
――メイドがたくさんいますよ。
そこしか合ってない気もするが、今日は朝からずっと教室にいた翼には、紹介できる所が他になかった。
「場所は3号館の3階です。分かりますよね? じゃ、俺はこれで……」
――失礼します。と、立ち去ろうとしたが、男がさっと片手を壁に突き、翼の行く手を阻む。
「え? 待って。君が案内してくれへんの?」
「い、いや、俺はちょっと他に用事があるから……」
くるりと向きを変え、反対側から逃げようとすれば、今度は反対側にも手を突かれて、両手で挟み込まれた状態になってしまった。
「あ……あのぅ?」
翼は恐る恐る男の顔を見上げた。――なんかこれって……。
「やだ……ナンパ?」
横を通り過ぎていく女の子の集団から、そんな声が聞こえてきた。
(俺って、もしかしてナンパされてんの? これ)
「ほな、そのメイドカフェで待ってたら、また会える?」
「え……、はぁ……いやー……それはどうかなぁー」
女生徒からは、片付けまでに戻ってくれたら良いと言われたが……それまで2時間くらいある。
「そう。じゃ、また後でね」
そう言って、男は翼から離れていく。
「え、いや、俺、用事終わらんかもしれなくて、行けないかも!」
去っていく後ろ姿に声を掛けると、男は肩越しに振り返り、爽やかな笑顔を向ける。
「ええよ。待つのは俺の勝手やから」
そう言って片手を上げて、男は3号館の方へ消えて行った。
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