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長月(26)
じっと見つめてくる、たれ目気味の優しい印象の水野の目。しかし、その瞳の奥にゆらりと揺れる熱を感じる。
今日の水野の雰囲気がいつもと違うのはこのせいだ。夏祭りの帰りに見た、あの時の瞳と同じだ。
「水野……今日のお前、なんか怖い……」
そう言って、上目遣いに水野に視線を合わせると、その目元が微かに緩んだ。
「なんで? 別に怒ってへんで? 責任とってっていうてるだけやで」
「せ、責任て……そんなん……どうやってとるねん」
「そやから、前に言うたやろ? 抜き合いっこしよって」
自分の股間に触れさせている翼の手を、水野が上からギュっと握る。
「あ、アホっ! そんなことせーへんって言うたやろ?」
翼は、慌てて水野の手を振り解き、距離を取ろうとしたが、水野に両足を挟み込むように跨られて、それ以上動けなくなった。
「なんで? 男同士で、恥ずかしがることないと思うけど……」
「そんなん、おかしいわ!」
翼が睨みつけると、水野は大袈裟なくらい、がっくりと肩を落としてみせる。
「あかんのかぁ。メイド服の翼が自分でしてるとこを見せてくれたら、それだけでイけそうやったのに……」
いつの間にか話し方も、いつもの軽い調子に戻っていた。
「そんなん想像すんな! てか、早よ退けよ、重いわ」
だけど、水野はなかなか翼の脚の上から離れようとしない。
「翼はどうすんの? これ、今からトイレ行って一人で抜くんやったら……」
「そんなんせんでも、お前が触ったりせーへんかったら、そのうち治まるんや……って、だから触るなって言うてるやろ?!」
水野は翼の脚に跨ったまま、ふざけてスカートを捲り上げたり、脇腹をくすぐったりしてくる。
「ちょ、ホンマ、やめて……あはは、くすぐったいって!」
「いや、こうしてるうちに、その気になってくれへんかなぁーって……」
「なれへんわ!」
首筋をくすぐってくる水野の手が、首の後ろで結んでいるエプロンのリボンの部分にに引っかかる。
ツルツルした素材で、リボンはスルリと簡単に解けてしまい、胸当ての部分がハラリと下へ落ちてしまった。
「あ……」
「お……」
思わず二人同時に声が出た。
「何これ……エプロンで分からんかったけど、こんな、全部透け透けやったんか」
水野が嬉しそうな声をあげたのを聞いて、翼は思い出した。エプロンやペチコートで隠れていたけれど、黒のメイド服はシースルーだった。
下はペチコートを穿いているので分からないけれど、上は小さな乳首が透けて見えて、それが女の子の胸でもないのにエロいとクラスの男子達が口々に言っていた。
「ちょっとだけ触らせて」
「いややっ、さ、触んなっ、ちょっくすぐったい……」
水野は下心があるかもしれないが、翼はそんなところを触られてもくすぐったいだけだ。
脚は跨られて動けないから、水野の攻撃から逃れようと、翼は必死に上半身を捩ってもがく。
その時、突然入り口のドアが開く大きな音が響き、それまで笑いながら揉み合っていた二人の動きが、驚きでピタリと止まる。
同時に部屋を覗き込んだ誰かの声が聞こえてきた。
「おーい、良樹 おる?」
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