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師走(4)

 こっち来いと、声は出さずに水野が手招きをして翼を呼ぶ。 「翼、勉強?」  静かにしろと律に注意されたせいか、水野は必要以上に声のトーンを落として小声で訊いてくる。  翼も声を出さずに『うん』と頷いて、水野の座っている向かい側の席に腰を降ろした。   『うん』と頷いたものの、勉強するつもりで図書室に来た翼だったが、今はそれよりも目の前の水野が気になってしょうがない。  鞄の中から勉強道具を出しながら、翼は向かい側に座っている水野をちらりと窺い見た。 「……!」  視線を上げた途端に、じっとこちらを見るめる水野と目が合ってしまい、翼は慌てて再び鞄の中へ視線を戻した。 「……水野は……こんな所で何しとん」  水野も翼と同じくセンター組だ。だけど、さっきの律とのやり取りからして勉強をする為にここに来ているわけではなさそうだ。 「……僕がここに来るのは、まぁ……日課のようなもん……かな」 「余裕やなぁ、水野は」  ――嫌いじゃない……でも、好きでもない……。  と、翼が答えた、学祭の日の旧図書室での一件以来、水野からは前のように毎日何度もメールや電話をしてきたりすることも、必要以上にベタベタしてくることも無くなった。  翼に距離を置いてると言うよりも、これが普通の友達の感覚なのだと思う。  水野と律の関係は、あれから変化したのかどうかは、翼には分からないけれど、二人が一緒に居るところを見かける機会は増えた気がしていた。  しかし、翼が今一番気になっているのは、その事ではない。 「……水野……あのさ……」  言い出しにくい件の話を切り出そうと、顔を上げると、水野は向かい側の席から身を乗り出すようにして、翼の目の前で机に頬杖をつく。 「何? 何?」  そのせいで、水野の椅子が、またガタガタと音を立たせた。  図書室のカウンターの方から、コホン、コホンと、咳払いが二回聞こえてくる。  なんとなく、そこに座っている律からの視線が翼に突き刺さった気がした。 「ちょ、あんまり近くにくんなよ……」 「だって、大きい声で話せへんから……」  確かに……机を挟んだこの距離で、普通に会話をするのは周りに迷惑な上に、さっき注意されたばかりで、顰蹙を買ってしまうだろう。  外で話そうか……とも思うけれど、それは何となく、律が誤解しそうだと思う。  ――誤解……? そうだ、律は、自分と水野のことを誤解しているんじゃないかと、翼の頭に過る。  ――『リッツは僕のこと好きなんて思ってないし、僕が翼を好きってことも知ってるで』  水野はそう言っていたけれど、翼から見れば、律の気持ちは明白だと思う。  それは翼に対する律の態度だったり、それに……学祭のあの時、律が見せたあの表情とか。  水野は律の気持ちに、本当に気づいてないのだろうか。

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