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師走(5)

「外、出て話す?」  考え込んでいる翼に、水野の方から提案してきた。 「うーん」  それでも翼は躊躇する。チラリとカウンターの方を見ると、やはりこちらを窺っていた律と目が合ってしまい、反射的にお互い同時に目をそらした。 「……律のことなら、気にせんでもええよ」 「……でも……」 「なんか僕に訊きたい事、あるんやろ?」  確かに、翼には水野に訊きたい事がある。だから、勉強する目的で図書室来たのに、目の前にいる水野のことが、さっきから気になって仕方なかったのだ。  やはり水野は、相手の気持ちを察し、先回りをして気遣うことができる。  ――『キャッチャーはな、ピッチャーをリードしていく中で、そいつの性格や特徴、その日の調子なんかも考えながら、試合中のちょっとした変化にも気づいてやらなあかんねん』  夏祭りの帰りに水野はそう言っていたけれど、それはキャッチャーだからそうしていたのではなく、彼の元々持っている性格なのだと翼は思う。だからこそ彼は、キャッチャーというポジションが向いていたのだと……。 「ほら、行くで」  翼の答えを待たずに、水野は立ち上がり、カウンターの前を通り過ぎて、ドアへと向かう。  その姿を目で追っていた律は、水野が廊下へ出てしまうのを見送った後、今度は翼へと視線を移した。 (……あーぁ……)  これではまるで、自分が悪役だと、翼は心の中で溜め息をつく。  相手の気持ちを察する事ができる水野なのに、本当に彼は気づいてないのだろうか。――あんなに分かり易い態度を見せる律の気持ちを……。  そう考えながら翼は、なるべく律と目が合わないように、カウンターの前を通り過ぎ、水野の後を追いかけた。  水野は図書室から数メートル離れた位置で、腰窓の手摺に凭れて翼が来るのを待っていた。 「……で、何? 僕に訊きたい事って」  翼が目の前まで来るのを待って、水野がそう訊いてくる。 「あのな……」  翼にとっては、翔太に関することを水野に訊くのは、少し言い出しにくく、つい口籠ってしまう。  ――『……翼のこと一生大切にするって約束する!』  真剣にそう言ってくれた相手に、翔太のことを訊くのは、利用しているみたいで虫が良すぎる気がした。 「……翔太のこと?」  だけど水野は図書室を出る前から、もしかしたら翼の訊きたい内容は察していたのかもしれない。  言い出しにくいと思っている翼を、また水野が気遣い、先に話を切り出してくれたのだ。 「うん……まぁ、そう……なんやけど……」

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