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師走(6)

「何でも聞くでって、約束したやろ? 遠慮せんと()うてみ?」  水野はたれ気味の目を細め、くしゃっと人懐っこい笑顔を浮かべた。  この笑顔をされると、つい何を言っても許されるような気がしてくる。 「さっき……下駄箱の所で翔太と……」  翼がそこまで言うと、水野は「あぁ、あれ見てたんか……」と、バツが悪そうに頭を掻く。 「……言い合ってたみたいやけど……何かあったん?」  あの時、水野は翔太を追いかけて行った。翼は自習室を回ってから図書室に向かったから、それなりに時間はかかったけれど、それよりも先に水野は図書室に来ていた。  もしも喧嘩をしていたのだとしたら、問題を解決する為に、話しをする時間は無かったんじゃないかと、翼は考えていた。  あの険悪なムードから、ちょっとした軽い口喧嘩とは思えなくて、水野があんな風に怒りをあらわにするのも珍しいが、翔太の水野へ返した冷めた声も気になっていた。 「うーん……」  珍しく水野が言いにくそうに、翼から目をそらし、窓の鍵に人差し指を引っ掛けて下へと降ろした。  静かな廊下にカチャンと音が響く。  細く開けた窓から、外の冷たい風が吹き込んでくる。  高校野球地方大会が終わって、部活を引退してから伸ばし始めた水野の前髪がさらさらと揺れる。 「……なんや? もしかして、俺には言いにくいこと?」 「そやなぁ……」  水野は困ったような表情で、校舎の北側に広がる山の緑を見つめていた。  言いにくい事って何だろう。言いにくくても言ってもらわないと、気になってしょうがない。 「俺、何聞いても大丈夫やで。()うて?」  一歩、足を前に踏み出してそう言うと、水野が漸く翼に視線を戻した。 「僕も悪いねん……。実は、翼にも謝らんとあかん……」  いつになく真剣な水野に、翼の不安が頂点に達した。  ざわざわとする胸騒ぎで、心臓が痛くなるような錯覚を覚える。 「もしかして……学祭の時のこと……関係ある?」 「……うん……その事も関係ある。……ごめんな」  ——やっぱり……と、翼は思う。  だけど、何故あの事で翔太と水野が喧嘩になるのかは分からない。  水野は『その事“も”関係ある』と、言ったのだ。  という事は、他にも何か原因があって、そちらの方が重要で、水野はそれを自分に話すことを躊躇っているのだと、翼は感じていた。

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