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師走(7)
「学祭の時、水野と一緒にいたのが俺やって、やっぱり翔太は気づいてたって事やんな?」
翼がそう訊くと、水野は困った表情を浮かべて、それでも素直に「うん」と頷いた。
「翔太からは、何も言 うてけーへんかったし、翼も、もうあの時の話を翔太にはせんとってって言 うてたから、僕もその話には触れずにいたんやけど……」
「……それやのに、なんで翔太が気づいてたって分かったん?」
その質問は答えにくいらしく、水野は翼から目をそらすように、また窓の外へ視線を移した。
「水野……ちゃんと言 うて。気になるやん」
翼が顔を覗き込むようにして答えを促せば、水野は困った顔のまま苦笑いを浮かべる。
「……待ってな。どこから話したらええか……今、頭ん中整理しとるから……」
水野が言いよどむ様子から、これはかなりショックな話なのじゃないかと、翼は身構えてしまう。
さっきから、なんとなく感じていた嫌な胸騒ぎの原因が、水野の答えにあるのだと確信に変わっていく。
「……うちのマネージャーの相田 由美 、覚えとぉ?」
やっと水野が重い口を開いて話し始め、翼が予想していた通りの名前が飛び出した。
「うん……覚えとぉよ。一緒に夏祭りに来てたし……」
学祭の時に、二人が一緒に野球部の模擬店にいるところも見かけたし、最近、翔太と一緒に帰っていく後ろ姿を度々見かけていた。
水野が言いにくそうにしていたのは、翔太と相田の事なのだろうと、何となく予想はついた。だから翼がショックを受けないように、言葉を選ぼうと一生懸命に考えてくれていたのだ。
「水野……はっきり言うてくれてええよ。俺
、前から薄々気付いてたし……」
嫌な予感は的中したみたいだけど、でも思ったよりショックじゃない。分かっていた事だから。
「え……いや、その……二人は、まだそんな……ちゃんと付き合 うとるわけやないで?」
水野が慌てる様子に、こいつでもこんな風に慌てるんだと、翼は思わずクスッと笑ってしまう。
「そんなに気ぃ使わんで大丈夫やって。俺そういうの平気やで。翔太は中学の時も噂のあった彼女いたし」
あの時は、本当のところはどうだったのかは、ハッキリしない。翔太に確かめたわけじゃなかったし、卒業して別々の高校に進学してからは噂も耳にしなくなったし、二人が会っているところも見かけなくなった。
翔太に好きな女の子ができて、想いが通じあった二人が付き合う。
それはとても自然で普通な事だ。
二人が仲良くしているところを目の前で平然と見ていられる自信はまだないけれど、いつか翔太に彼女ができたと報告されたら、翼は心から祝福するつもりでいた。
将来、翔太が誰かと結婚しても、ちゃんと「おめでとう」と言える自信はあった。
でもそれは、ずっと幼馴染の関係を崩さずにいられたらの話だけれど。
“好き”の境界線を越えた本心を、翔太に知られてしまった今では、それももう出来そうにない。
それでも、翔太に彼女ができることは、ちゃんと受け入れられる。
大丈夫。——全然平気だ。
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