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師走(8)
「ちょ! 待って待って! ホンマに二人はまだ恋人ってわけやないんやって!」
水野は慌てて否定する。だけどその後に「……ただなぁ……」と続けて、そこでまた言いよどむ。
「ただ……なんやねん……? 大丈夫やから早よ言え」
翼に急かされて、水野はゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
相田は一年の頃から翔太のことが好きだったという事。
野球部のマネージャーになったのも、翔太がいたからだったという事。
相田が翔太を好きだという事は、翔太以外の周りは、みんな気が付いているという事。
そうだろうな……と翼は思う。翔太はこういう事に関しては、“超”が付く程、鈍感だ。
「由美は可愛いし性格もええから結構モテて、今までも、よう告白されたりしとったんやけどね。でも『好きな人がおるから』って、全部断り続けてて……」
でも、翔太は全く相田の気持ちに気が付かなくて、相田の方は翔太に告白するわけでもない。
二人が一緒にいる様子は、すごく自然に見えるのに。
周りはそんな二人に、ずっとヤキモキしていた。——早く、くっつけばいいのに……と。
「だけど、地方大会が終わって、部活を引退した頃から、由美がちょっと積極的に行動を起こすようになってきてね……」
地方大会が終わって……ということは、夏休みに入ってからだ。
「あの夏祭りも、ホンマは最初、二人で行くつもりで、由美が翔太を誘ったんやけど、それに気が付かへん翔太が僕に連絡してきたんが、三人で行く事になったきっかけやってん」
————
『良樹、野球部で夏祭り行くんやろ? 集合時間とかどうするん?』
『え? そんな話になっとぉの? 僕、行くつもりしてなかってんけど……』
『そうなん? 他の部員にもちゃんと連絡回っとんかな……この話、マネージャーから回ってきたんやけど……』
————
そんなやり取りがあって、自分が相田に確認の電話をしたと、水野は話す。
「翔太と二人で行くつもりやったのに、僕にそんな事を言われて、由美もびっくりしたと思う」
相田と話をして、翔太が勘違いをしている事を知った水野は、気を利かせて『僕は、夏祭りには急用で行けなくなった事にする』と、相田に言った。
だけど、そうなると翔太も行かないと言い出してしまうかもしれない。だから水野も一緒に来てほしいと、相田の方から頼んできて、結局三人で夏祭りに行く事になった。
翔太には、他の部員達は都合がつかなかったという事にして。
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