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師走(10)

 学祭の後、水野は翔太のことを注意して見ていたが、別に変わった様子はないと思い込んでいた。 「あいつ、普段から無口で、感情が表に出難くいタイプやけど……それでも三年間バッテリー組んで、翔太のちょっとした変化には気付く自信あったんやけどな……」  水野はそう言ってから視線を翼から逸らし、「とんだポーカーフェイスやわ……」と、小さく呟いた。 「……え?」  訊き返した翼に視線を戻し、水野は続きを話し始める。  翔太は、水野に対する態度は変えなかった。だけど、いつの間にか翔太から水野へ話しかけることが、なくなってきていた。  気がついた時には、翔太と水野が話をするのは、水野から話しかける時だけになっていたというのだ。  翔太と水野は三年間クラスが一緒だった。部活もバッテリーを組んでいて、何をするのも、どこへ行くのも、二人一緒に過ごしてきた。――それは翼が羨むくらいに。  確かに、部活を引退し、最後の大きな学校行事である学祭も終わり、進路が決定した翔太と、センター組の水野では、今までのように一緒にいる時間も少なくなってきたかもしれないけれど。  水野からすれば、翔太がさりげなく距離を置いているように思えてならない。  そうして気がつけば、翔太は水野と一緒に行動しなくなった代わりに、積極的に行動する相田と一緒にいる時間が増えていた。 「それで気になって、さっき冗談ぽく訊いてみたんやけど……」  薄く開けた窓の隙間から冷たい風が吹き込んできているのに、手摺を掴んでいる翼の手のひらには汗が滲み始めている。 「……なんて?」  翼が水野の目をじっと見つめて促すようにそう訊けば、水野は翔太との間に何があったのか話し始めた――――――  *  翔太にその事を訊くのは、終業式の今日しかないと、水野は朝からその機会を窺っていた。  しかし、終業式で体育館に移動する時も、教室へ移動する時も、LHRが始まる前の休み時間も、翔太の傍にはいつも相田が居て、なかなか話を切り出すチャンスがなかった。  別に相田が一緒でも、いつものようにちょっと軽いノリで切り出せば、なんてことないような気もするが……。  そう思いながらも、水野は頭の中で『それはやっぱりダメや』と首を横に振る。  もしも話が変な方向に拗れた時の為にも、相田を遠ざけておいた方が無難だと考え直した。  翔太と二人きりで話が出来るチャンスは、後は、LHRが終わって相田が動く前に翔太を捕まえるしかない。

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