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師走(12)
だけど、どんなに思考を巡らせても、どこから話を切り出しても、翔太が身構えずに素直に話してくれるイメージが浮かばない。
「……学際の時、旧図書室で僕と一緒にいた子、覚えてる?」
結局、今一番知りたい事から訊くことにした。
これを翔太が、どう答えるかで、水野の予想は確信に変わる。
「……なんで……わざわざそんな事訊くん?……翼やろ?」
答えた瞬間、水野と目を合わせていた翔太の視線が僅かに下に逸れ、顎の辺りに動いた。
(――やっぱり、そうなんや……)
胸の奥に小さな痛みが走るのを感じながら、水野は次の言葉を模索する。
「……よう分かったな! 僕は最初翼って分からんかったのに、さすがやね」
意識して、少し軽めの口調でそう返せば、翔太の視線が再び上に上がってきた。
――わざわざそんな事を訊きたかっただけか?(……とでも言いたげな表情やな)
「……可愛かったやろ? 翼」
水野が言ったその言葉に、翔太の目に力が篭った。
睨んでいるという訳ではない。眉を僅かに寄せ、瞳の色に濃さが増したのだ。
そんな微妙な変化を見逃さなかった水野だが、胸の奥の痛みは、ざわざわと広がっていく。
翼が翔太を想う気持ちは、多分ちょっとやそっとの事では変わらない。
無理やりにでも自分のモノにすることは出来たけれど、相手を想うその気持ちが分かるからこそ、水野は翼に、最後まで手が出せなかった。
だけど諦めたわけではない。
だから協力は出来ないが、相談には乗ると言ったのだ――いつか翼が翔太を諦めるその日まで。
本心は、翼が好きな奴と幸せになること。その相手が自分だったら、どんなに良いだろうと思うけれど。
今、目の前にいる翔太に、翼はずっと片思いをしていた。その想いが実らなくても、幼馴染の関係を崩さずにいられたら、それで満足だと言っていた。
だけど、片思いじゃなかったとしたら――
胸の奥に広がる痛みが、黒くモヤモヤとしたものに変わっていくのを感じずにいられない。
(――これは多分……嫉妬っていうやつ……)
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