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睦月(2)

「あけましておめでとー!」  しかし、翼の予想は見事に外れた。  玄関のドアを開けると、目の前に立っていたのは健だった。 「あけましておめでとう……って、あれ? お前、瑛吾と一緒に初詣に行ったんじゃなかったん?」 「もちろん! 瑛吾も一緒やで? ほら」  ――ほら、と健が後ろを振り向いて指をさした門扉の前に、翼と同じようにスマホを耳にあてている瑛吾が立っている。 『翼、迎えに来たで!』  電話の向こうから聞こえてくる声と同時に、門扉の前で立っている瑛吾が大きく手を振った。 「な、何してんねん、お前ら……」 「何って、翼を迎えにきたんや。初詣! 一緒に行こ」  スマホを耳にあてたまま固まってしまっている翼の前まで、瑛吾が近づいてきた。 「俺、昨日、行かへんって言うたよな?」 「何言うとんの。受験生が合格祈願せんでどうするん」 「神頼みしたって、あかん時は、あかんのや」 「まぁ、難しいことはええやん。息抜き、息抜き」 「いや、俺、難しいことは何も()うてへん」 「ええから、ええから。早よ用意して行くで……って、なんも用意するもんないか! あはは!」  そんな調子で瑛吾に腕を掴まれて、翼は外へ引っ張り出されてしまった。  瑛吾と健は、翼の家に来る途中で、さっき出掛けていった夏香達に偶然会ったそうだ。 『翼が家に引き籠っているから、連れ出してやって』と、夏香に頼まれたらしい。 「まぁ、お姉ちゃんに言われんでも、絶対連れ出すつもりやったけどな」  自信満々に話す瑛吾と健の二人に、逃げないように両脇から腕を組まれた状態で、翼は諦めたように溜め息を吐いた。 「分かった、分かった。逃げへんから、そんなにピッタシくっつくなって」  これじゃ、初詣に出かけるというよりも、宇宙人に連行される猿みたいだ……。 「ところで、どこに初詣に行くん」  二人に引っ張られるままに歩いているが、どうやら駅の方に向かっている。 「やっぱり、一番賑わってる所がええやろ? ご利益ありそうやしな」  そう言われて思いつく神社は、この街の中心市街地に位置していて、普段から参拝客が多い神社……。 「えー? 嫌や! 元旦なんかめっちゃ混んでるやん、あそこ!」  過去にも正月に何度か行ったことがあるが、三が日の混雑は口では言い表せない。  本殿に辿り着くまでに、疲れ果ててしまいそうだ。 「しかも御利益って……あそこは恋愛成就や縁結びで有名なんやろ?」  翼がそう言うと、瑛吾は嬉しそうにパンッと手を叩いた。 「おお、そうやん! ほな今日は“縁結びの水占い”も、やってみるか?」

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