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睦月(4)

 本殿よりも更に奥に『鎮守の森』がある。  そこまでの景色とは一変し、木が鬱蒼と茂る入口が見えてくる。  一歩足を踏み入れると、小川の微かなせせらぎや、鳥のさえずりが聞こえ、立ち並ぶ木々に囲まれる。  ここが街中だと忘れてしまいそうなくらい、神秘的な気配が漂っている。  決して大きくはないけれど、確かにここは小さな『森』と言える空間だ。  水占いの池は、この森の奥まった所にあった。  池の前に立てられた高札には“縁結びの水占い”と書かれている。  普段ならひっそりとしているこの森も、さすがに元旦の今日は混雑を避けられない。  ただ、本殿の方と比べるとカップルばかりが目についた。水占いを待つ男女の列が、数メートル続いている。 「やっぱり、なんか恥ずかしいわ……男三人で……」  翼は、隣に立っている瑛吾にコソッと小声で話しかけた。 「なんも恥ずかしがることないやろ? 誰も俺らのことなんて気にしてへんて……」  そう返した瑛吾の声も、なぜかヒソヒソ声になってしまっている。 「ほな、なんでお前もヒソヒソ声で話すねん。やっぱり恥ずかしいんやろ……」 「アホ、恥ずかしないわ」 「お、俺も恥ずかしないぞ。翼は気にしすぎやねん」  肘で小突き合いながら三人で言い合いしている間にも、水占いをする列は順調に進み、わりとすぐに順番は回ってきた。  授与所で授与してもらった水みくじは、ハートや神紋である八重桜がピンク色で描かれていて、なんだか手に持つだけでも赤面してしまう。  このピンクの水みくじを、男三人で並んでしゃがみ込み池の水に浸していると、後ろで順番を待っている人からの視線が気になってしょうがない。 「おっ、文字が出てきた!」  瑛吾の声に、翼もはっとして自分の手にしている水みくじに視線を落とした。 「あ、ホンマや……」 「これが神様からのメッセージってやつやな」  ハートの形の中に、黒い文字が浮かび上がってきている。 「お、翼、大吉やん」 「う、うん……そうやな……」  翼の水みくじには、はっきりと『大吉』の文字が一番上に現れていた。  水みくじの項目は、『色』『願い事』『場所』『縁談』があり、それぞれにメッセージが出ている。  そして一番下には総合恋愛運が、八分咲きなどの桜の咲き具合で表現している。  翼の総合恋愛運は……今の翼の心中とは真逆の『満開』になっていた。

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