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睦月(5)
それぞれの項目は、
『色』――青と白のストライプ。
『願い事』――案ずることはない、好転する。
『場所』――見晴らしの良いところへ行ってみると良い。
『縁談』――自分だけで考えすぎないこと。
どれも当たり障りのない、誰にでも当てはまるような感じがする。おみくじや占いなんて、そんな物だ。
「へぇぇ、青と白のストライプ……。Tシャツでも買いに行くか?」
瑛吾が翼の水みくじを覗き込んできた。
「そんなん買わへん。こういうのは参考にしたらええだけで、ホンマにその通りにせんでもええねん」
「でも翼、普通のおみくじは『中吉』やったけど、水みくじは『大吉』やん。しかも総合恋愛運『満開』やて! 今年こそ彼女できそうやな」
――俺なんか、水みくじ『吉』で総合恋愛運『三分咲き』やで。今年もあかんわー。
ぼやきながら瑛吾は、同じく『吉』だった健と並んで、池のほとりにある相合傘のような形の『結び所』に水みくじを結んでいる。
翼は、そこには結ばずに、綺麗に畳んだ水みくじを、こっそり財布の中へ入れた。
別に意味はない。
だけど少し気になったのだ。
『願い事』と『縁談』に書かれていたメッセージが。
それに大吉なんて今までもあまり引いたことがなかった。なんとなく、このおみくじをお守りにしたいような気持ちになっていた。
鎮守の森から出て、ぎゅうぎゅうとまた人の波に押されながら、境内に軒を連ねる屋台を回る。
『ベビーカステラ』の屋台を見つけた健が、どうしても食べたいと言うので、仕方なく付き合って30分も並んで買って、それから神社を後にした。
露天が並ぶ歩行者天国は、来た時よりも行き交う人で混雑していて、駅に着く頃には三人とも疲れ果てていた。
「でも、気分転換になったやろ?」
帰りの電車の中も込み合っていて、ドアに凭れ掛かって立っている翼の顔を、瑛吾が楽しそうに覗き込む。
「ああ……確かに……気分は変わったわ……」
苦笑を浮かべながら、翼は窓の外へ視線を向ける。
今日は寒いけれど、暖房と人熱れで汗ばむ車内よりは、外にいる方が気持ち良い。
「そやけど早よ外の空気吸いたい……」
――受験が終わって、早く春の空気を味わいたい。
「あ、そう言えば……お守り買うの忘れたな? 翼、受験生やのに」
思い出したように、健が言う。
「別に、お守りなんかええねん」
そんなの、あってもなくても、大して変わらないと思う。
「ま、ちゃんと神様にお願いしてきたから大丈夫やろ」
そう言って、瑛吾は翼の肩をポンポンと叩いた。
「あー、早よ終わらんかなぁ……受験」
翼は、かったるそうにな声で愚痴を零した。 だけど今朝まで感じていた肩の重みは少しだけ軽くなった気がする。
センター試験まで、あと18日――――
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