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睦月(7)
――翔太……!
一瞬声が出なかった。
「……おはよう……って……何してんの? こんな所で」
翼は、フリーズしそうになった脳を必死に働かせて、なるべく“普通”を装う。
「……何って……ランニング」
――ランニング?
返ってきた翔太の言葉に、ついツッコミを入れそうになって、翼は口元を手で覆う。
確かに翔太はジャージを着ている。が、その上にモコモコしたハーフ丈のダウンを着ているのだ。
寒そうに、両手はダウンのポケットに突っ込んで、首にはマフラーをしっかり巻いている。
とてもランニングをしていたようには見えない。
相田と待ち合わせでもしているのか……と、頭を過ぎったが、それも違うだろう。
いくらなんでも、ジャージでデートはないと思う。
「翼は、今日試験やんな?」
「うん……」
「……電車で行くん?」
「……うん、そう。15分の“普通”に乗る」
「……そうか……」
(――って! なんや、この会話は……)
翼は、心の中でまたツッコミを入れる。
駅まで来てるのだから、電車に乗るに決まっている。
久しぶりの会話だからだろうか……。気まずいと言うのではなく、何を話せばいいのか分からないのだ――お互いに。
「ほ、ほな……俺、行くわ……」
「あ、あぁ……頑張れよ」
短い会話を交わして、お互い別方向に歩き始める。
翔太は、翼が今上って来た歩道橋の階段へ……。
後ろを振り返りたいという気持ちを抑えて、翼は駅の自動券売機へ向かう。
――もう今頃、翔太は階段を半分くらいまで下りた頃だろう。と、翼は切符を買いながら思っていた。
だけど、自動券売機の乗車券取出口から切符を抜き取ったその時だった。
「――翼!」
今、別れたばかりの翔太の声に呼ばれた。
驚いて肩越しに振り向けば、彼は薄く開いた唇から、白い息を吐き出しながら、翼の数メートル後ろに立っている。
「……どしたん? 翔太」
不思議に思いながら近づくと、翔太はポケットに入れていた手を、翼の目の前に差し出した。
「……これ、やる」
「……え?」
翔太の手のひらの上にあるのは、お守り。
白地に金の文字で『合格御守』と、書かれている。
「もしかしたら、同じやつ持ってるかもしれんけど……」
「いや……お守りは持ってへん……」
――財布の中に『水みくじ』は入ってるけど……。
「これ、俺にくれるの?」
「うん」
翼は、手を伸ばしてお守りを掴み、裏を返して、神社名を確認する。
「北野町まで行ってくれたん?」
「……ついでがあったから……」
その神社は、瑛吾達と行った神社よりも、もっと北の、坂を上りきった上の方にある。
確か、鳥居を抜けると、また長い参道を登らなければならない。
異国の雰囲気が溢れる観光スポットの中にある神社だ。
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