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如月(1)
――――――――如月
センター利用で滑り止めの大学は合格した。だけど翼にとっての本番は、二月十五日の一般入試。自分の実力よりも上の大学を狙う。
『――学校の先生とかになればええと思う――』
翔太に言われたことが、進路をぼんやりと考える最初のきっかけだった。
はっきりと意識し始めたのは、翔太のW大進学が決定した頃からかもしれない。
そして、翔太のように出来る限りの挑戦をしてみたいと思った。
今は、そうする事で、これからも胸を張って翔太の隣に肩を並べられるような気がしていた。
無謀とも思える挑戦。背中を押してくれたのは、担任の三島だった。
相談した時は、笑われると思ったけれど。三島は笑ったりしなかった。
『まぁ、滑り止め押さえといたらええんちゃう?』
相変わらず口は悪いけど、親身になってアドバイスをしてくれる。
そして、いつも最後に翼の髪をくしゃくしゃと撫で回しながら、こう言った。
『できの悪い生徒ほど可愛いのぉ~』
二月に入って、三年生は自由登校になっていた。一般入試の日程がこの時期に集中しているし、国公立の二次試験もあるからだ。
週に一度の登校日以外は、二次試験対策の授業や図書室や自習室を使う生徒が登校するくらいで、翼も殆ど家に引きこもっていた。
翼が受験する一般入試の前日は、登校日だった。
教室に行くと、いつも遅刻ギリギリの健が、もう席に着いている。
「だって、今日はバレンタインやん」
嬉しそうに言う健に、翼は思わず吹き出してしまった。
「貰えるって期待してるんかいな!」
翼の後から教室に入ってきた瑛吾が、すかさずツッコミを入れる。
「えー? だって高校最後のバレンタインやねんで? もうすぐ卒業やねんで? もしかしたらずっと片思いしてくれてて、この機会に思い切って告白してくれるようなドラマチックな事もあるかもしれんやんー」
「無い無い」
翼と瑛吾は、同時にそう言って笑い飛ばした。
あぁ、でも……本当にもう卒業するんだな……。ふと、そう思う。
明日の試験が終わったら、その二週間後に卒業式。
それまでに学校に来るのは、もう登校日一回と卒業式前日の予行演習の日だけ。
そう考えると、急に“卒業”という言葉が現実味を帯びてきて、じわじわと何とも言えない気分が押し寄せてきた。
嬉しいのに寂しくて……それは焦燥感にも似ている。
そんな気分にさせる原因のひとつは、まだ自分の想いをちゃんと伝えきれてなくて、ふわふわと落ち着かないせいかもしれない。
合否が分かるのはまだ先だけど……明日の試験が終わったら、翔太に連絡してみようか――――
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