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如月(2)

 そうだ、そうしよう。明日の試験が終わったらすぐに連絡しよう。  ――試験、今終わった。  そう書いたメッセージを送ったら、翔太はなんて返事をくれるだろう……。  ――じゃあ、キャッチボールしよか。  ――今から?  ――そう。約束したやろ?  そんなやり取りを想像して胸を弾ませながら、翼はSHRを終えた教室を飛び出して昇降口へと向かう。  今日は寄り道せずに早く帰って明日の準備して、夜もなるべく早く寝よう。  勉強は、やれるだけの事はやった。今更ジタバタしても仕方ない。  そして、翔太に会ったら……もう一度、ちゃんと気持ちを伝えよう。  今度は、夏祭りの時みたいに勢いじゃなくて、ちゃんと翔太の目を見て……。  翔太の “好き” が、自分と同じ“好き”でなかったとしても、きっと翔太とは、これからも幼馴染みとして、今までと変わりなく付き合っていける。  今なら、はっきりとそう思えた。  できることなら、翔太も“好き”の境界線を越えてくれたら、どんなに良いだろう……とは、思うけれど。  でも、翼は心のどこかで期待している。  水野から聞いた話と、センター試験の朝、駅で待っていてくれた翔太のことを思い出すと、やっぱりどうしても自分の都合の良い方へ考えてしまうのだ。 「……っ」  だけど、昇降口へ降りる階段の途中で、翼は思わず、発しそうになった声を飲み込んだ。  下駄箱の前に、翔太の姿があった。  声を飲み込んでしまったのは、翔太が居たからという理由だけじゃない。  相田と一緒だったからだ。  しかも彼女は、恥ずかしそうな仕草で、プレゼントを翔太に渡しているところだった。  翼は、咄嗟に自分の口を手で押さえ、その場にしゃがみ込み、階段の手すりの影に身を潜めた。  そして息を殺して、そっと二人の様子を覗き見た。  相田はプレゼントが入っているらしい袋を開けている。  中から出てきたのは白いマフラーだった。  翼は手すりから覗かせていた顔を一旦引っ込めて、手のひらに爪が食い込むほど、ギュッと拳を握り締めた。  二人が何を話しているのかは、翼のしゃがんでいる位置からでは、遠くて聞こえない。  だけど、最後に見たのは……二人が並んで帰っていく後ろ姿。  そして、翔太が首に巻いているのは、たった今、相田から渡されたマフラーだった。

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