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如月(5)
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試験が終わった夜、スマホに瑛吾からメッセージが入った。
『試験どーやった?』から始まって、受験の打ち上げをしようという話になった。
『いつする』と聞いてくる瑛吾に、翼は『いつでもええよ』と返す。
合格発表は五日後だけど、受験が終わって、翼は少し気が抜けた状態になっていた。
今は、何もかも忘れて騒ぎたい――そんな気分でいる。
『ほな明日、十三時な』
最後に時間を確認してきた瑛吾に、OKのスタンプを送って、翼はホームボタンを押した。
そのままベッドに寝転がり、少し考えてからもう一度メッセージアプリを立ち上げる。
――『W大、行くことになった』
前に翔太が送ってきたメッセージの画面を開けると、その文字が目に飛び込んでくる。
『受験終わったで』
たったひとこと、それだけを伝えればいい。
文字を入力して、送信ボタンを押すだけでいい。
それで、翔太とは今まで通り、ただの幼馴染の関係に戻れる。
約束通りにキャッチボールをして、それから、ずっと言いそびれていたことを言わなくては……。
――W大合格おめでとう。
それから……あと翔太に言わないといけないことは……
――向こうに行っても頑張れよ。とか、
――帰って来たら、また連絡してな。とか……
それから……あと、何があるだろう……。
――彼女に振られんように、忙しくてもちゃんと会 うたれよ。……とか……。
そこまで考えて、送信を押そうとしていた翼の指が躊躇ったように動かなくなってしまう。
『受験終わったで』と入力した文字を、後ろから一つずつ消していく。
今、翔太に会って、自分は普通に接することができるだろうか……。
翔太の隣に立つ相田の姿が、どうしてもチラついてしまう。
翔太に、いつか彼女ができることは、もうずっと昔から覚悟をしていたつもりだったし、実際中学の時も、翔太には、付き合ってるんじゃないかと噂のあった女の子もいた。
だけど今は……二人のことを認めることが、どうしても出来そうにない。
それは、バレンタインデーに実際に目の前で見た光景が、これは噂ではなくて現実なのだと思わせてしまうから……かもしれない。
今、翔太に会ったら、平常心を見失い、またとんでもない事を口走ってしまうような不安が過ぎった。
……だけど……。
今、会わなければ、もう二度と幼馴染の関係に戻れないような気もしていた。
これから先も、こうやって翔太から逃げてばかりの自分になるのも嫌だと思う。
もう一度、やっとの思いで『受験終ったで』と入力する。
だけどやっぱり送信ボタンを押すのを躊躇して、またメッセージを消した。
そんなことを何度か繰り返していたが、最後には、とうとうメッセージの画面を閉じ、スマホを持った手をパタリとベッドの上に落としてしまった。
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