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如月(6)
(今夜はムリ……)
バレンタインデーに、昇降口で二人を見かけるまでは、試験会場を出たらすぐに翔太に連絡するつもりだった。
でも今は、あの時とは状況が違う。
今日は試験が終わったばかりだし……ただの幼馴染なだけなのに、慌てて連絡しなくてもいい。
そう思った途端、力なく握っていたスマホが、突然着信音を響かせた。
「うっ、わっ、びっくりした!」
飛び跳ねるように上半身を起こした瞬間に、慌てすぎたせいで、スマホをまるでボールのように手の上で跳ねさせてしまう。
「あっ、ああっ!」
キャッチしようと必死に手を伸ばすも、既の所で届かずに、スマホは勢いよくベッドから滑り落ち、鈍い音を立たせて床へと落ちた。
翼は、追いかけるようにベッドから転がり降りて、着信音を鳴らし続けているスマホを拾う。
相手が誰か確認する余裕もなく、受話ボタンを押して耳にあてた。
「──も、もしもしもし!」
焦ったままの翼の第一声に、電話の向こうから応答はすぐに返ってこなかった。
『……翼』
一拍置いて聞こえてきたバリトンボイスに、心臓が痛いほど強い鼓動を打つ。
(──翔太……!)
まさか電話をかけてくるとは思わなかった。
いつも翔太と連絡をする時は、メッセージアプリを使うことが多かったから。と、言うか、高校に入ってスマホを持つことを許されてからは、その連絡方法でしかやり取りをしていない。
だから、翼にとっては予期できない驚くべき出来事だったのだ。
『どうした?』
翼の慌てっぷりに、電話の向こうの声が怪訝そうに聞いてくる。
「いや、何でもない。急に電話鳴ったから、びっくりしてスマホ落としてしもた……」
『〝もしもし〟の〝もし〟が一回多かったな』
耳に心地よい低音に、少しだけ笑いが混じる。——あぁ……やっぱりこの声好きだな……と思う。
だけど同時に、何故急に電話なんかしてきたんだろうとも思う。
「だって翔太が電話してくるなんて、珍しいやん……びっくりしたんや」
『メッセージやったら、また読まへんやろ? 翼は』
言われて、翼は言葉に詰まってしまう。
前にもらっていた翔太のメッセージには、ずっと既読を付けていなかったから。
ついさっき、初めてその画面を開いたばかりだった。
このタイミングで、翔太が電話をしてきたのが偶然か。それとももしかしたら翼が既読を付けたのを確認したからか。
どちらかは分からない。
『もしかして……そろそろ受験終わったんちゃうかなぁと思 て、電話してみた』
翔太の続けた言葉で、後者の理由が当たっている確率が上がる。
そう思うと、翼は一気に顔が熱くなるのを感じた。
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