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如月(7)

 昨年の九月に送ったメッセージに、今日になって突然既読が付いたのだ。それを見た翔太は翼からの返信がくると思ったかもしれない。  文字を入力しては消しを何度も繰り返していた事も、結局ヘタレて送信できなかった気持ちも、何もかも翔太に見透かされているような気がして恥ずかしかったのだ。 「……うん、今日な、本命の試験やってん」 『そうなんや。本命ってどこやったん?』 「K大」 『そうか。それで……できた?』 「……うーん、どうやろな。自信はないけど……」  本当に自信はなかった。ギリギリのラインに入れるかどうかだと思う。 『大丈夫や。翼、頑張ってたから』  翔太の言葉に、翼は思わず吹き出してしまった。 「見てたんかいな」 〝夏休みからずっと、まともに話もしてなかったのに〟という意味を含んで、冗談で返したつもりだった。  だけど、意外にも真面目な声が返ってくる。 『……それくらい分かる』  いつもより少し低めのトーンで小さかったけれど、その言葉は翼の胸を衝く。嬉しいような、切ないような、様々な感情が入り混じっていた。 『もう、他は受けへんのか?』  暫く間を置いて聞こえてきた声に、翼は、ハッと我にかえる。 「そやな……今日の落ちてたら、滑り止めのとこ行くわ」 『発表はいつ?』 「五日後」 『ほな……明日にでも会える? キャッチボールの約束したやろ?』  ──明日……? 「ごめん、明日は瑛吾らと約束してんねん」  翔太には会いたい。これからも普通に今まで通り幼馴染の関係でいる為には、今会っておかないといけない。そんな気がしていた。  だけど、さっき約束したばかりで、それをキャンセルするのは気がひけるし、翔太とは別の日に会えばいいと安易に思っていた。  翔太が東京に行ってしまうまで、まだ十分に時間はある。 『そうか……ほな明後日は? できれば早い方がええ。話しておきたい事もあるし』  ──話しておきたい事? 「なんや? 話しておきたい事って。気になるやん、今()うてよ」  気になる。だけど、聞きたくないという気持ちが、徐々に頭の中を支配していくのも、翼は感じていた。 『ちゃんと顔を見て話したいから……』  翔太から返ってきたその言葉が、翼の〝聞きたくない〟という気持ちを決定づけてしまう。  翔太は多分、相田とのことを話すつもりなのだ。  そう考えると、後ろめたさを感じながらも、口が勝手に嘘をついてしまっていた。 「ごめん……明後日は家の用事がある……暫くは、なんやかんやで、ちょっと忙しいかも……」 『そうか……』  電話の向こうで、翔太が小さく溜息をつく。  お互いに何も喋らない時間が数秒流れ、『じゃあ……』と、翔太の方が先に口を開いた。 『翼の、都合のええ日ができたら連絡くれるか』 〝都合の良い日〟……そんな日がこの先訪れるんだろうか。そう思いながらも、翼は「うん」と返した。  すべては、翼の気持ち次第なのだ。 『今度は、ちゃんと……翼の方から連絡してきてな』  最後にそう言った翔太の言葉が、通話を終えた後も、翼の耳にずっと響いていた。

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