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如月(8)
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本命大学の合格発表があった翌日は登校日だった。
卒業式までに学校に行くのは、今日と、予行演習を行う卒業式前日の二日間だけだ。
まだ国公立の二次試験や、私立の一般入試も残っている期間だから、休む生徒も多いんじゃないかと思っていたが、翼のクラスはほぼ全員のいつもの顔が揃っていた。
登校日でやる事といったら、せいぜい卒業式の歌の練習とか、先生の連絡事項を聞いて、教室の掃除をするくらいなのに。
この空間に居られるのもあと僅か。その僅かな時間を惜しむような感情が、きっと誰しも心のどこかにあるのだろう。
合格発表は、昨日の正午に大学のHPで、合格通知が届く前に確認した。
昨日のうちに、スマホのグループトークでメッセージを送ってきた瑛吾と健には、合格した事は伝えていた。
もちろん担任にもすぐに連絡した。
だけど、翔太にはまだ伝えていない。
「翼も本命校に合格したし、入学までにまたどっか遊びに行かなあかんな」
卒業後の遊ぶ計画を立てようと言う瑛吾に、健は真っ直ぐに手を挙げて応えた。
「女子も誘ってさ。今度はちょっと明るい太陽の下で遊ばへんか? 遊園地とか!」
「えぇー? 遊園地ぃ? 女子誘うのはえ賛成やけど……」
本命大学の試験があった翌日、受験の打ち上げと称して、朝7時から夜8時までのフリータイム料金を利用し〝13時間耐久カラオケ〟をたった三人でやったばかりだ。
瑛吾は渋っているけれど、翼は〝次は明るい太陽の下で〟と言う健の意見に大賛成だった。
瑛吾や健と、こうして思い切り遊ぶのは楽しい。
だけど、13時間ぶっ通しでカラオケをしている時も、冗談を言い合いながら笑っている今も、脳裏にはずっと翔太が最後に言った言葉が残っている。
──『今度は……ちゃんと翼の方から連絡してきてな』
翔太と、またキャッチボールをしたいし、話もしたい。何よりも翔太に会いたい。
そう思う一方で、〝ちゃんと顔を見て、話しておきたい事がある〟と言った翔太の言葉の意味をつい深読みしてしまう。
それが翼の行動したいという気持ちをセーブしてしまっていた。
『実は……彼女ができた』
そんな言葉を、翔太から聞かされて平常心でいられる自信が今はない。
もう少しだけでいいから、時間が欲しい。その間に必ず心の準備をするから……。
だけど、卒業までのあと僅かな時間を惜しむような、この教室の雰囲気に、何か焦りのような感情が湧いてくる。
卒業したらもう、学校で翔太を見かける事もできなくなるのだ。
翔太と会って、ゆっくり話をするのは先延ばしにしても、顔を見るだけなら……合格の報告をするだけなら……今の自分にもできるかもしれない。
そう思うと、居ても立っても居られなくなってしまう。翼は10分間の休憩時間になるのを待って、ひとつ上の階にある翔太の教室へ向かった。
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