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弥生(18)

「それで、付き()うとると思ったん?」  翼は頷いて、そのまま顔を上げることが出来ない。  頭の上で、翔太が小さく息を吐く。 「確かにあの時、由美から告白されて、あいつの手作りのマフラーを巻いて帰ったけど……」  ──やっぱり……。  あの時見た光景は、見間違いなんかじゃなかった。という事は、当然翔太と相田は、あの時から付き合っていたのだろう。  そう思うと、やはり翼は、胸の奥に痛みを覚える。  どんなに短い期間でも、その事実を知るのと知らないとでは、大きな違いがあった。 「でも、それも家に帰る途中まで。由美は駅方面へ行くから、俺の家の手前の分かれ道でマフラーは返したで?」 「は?……それって、どういう……」  翼は驚いて、思わず顔を上げた。翔太の言っている意味が分からなかった。  翔太は、頭を掻きながら、困ったような表情を浮かべている。 「あの時、下駄箱の前で告白されたけど、すぐ断ったんや……」  そこまで言って、翔太はその先を言いにくそうに口を噤む。 「え? なんで?」と、翼が訊き返すと、翔太の頬が赤く染まった。 「そんなん、他に好きなヤツがいるからに決まっとーやろ!」  今度は翼の方が、顔が熱くなる。  ──でも、それならどうして? 「ほな、なんでマフラーなんかしたんや?」 「由美が……帰り道だけしてくれたら、それで気が済むって()うたんや……だから……それだけでええんやったらと思ってしもた」 「あ……アホやろ、翔太……」 「……アホで悪かったな。でも、それで翼が誤解しとったんやったら謝る……」  ──停車中の──分発、のぞみ──号東京行き、間も無く発車です。お見送りのお客様はホームからお願いいたします。  アナウンスがホームに響く中、「ごめんな」と、言葉を続けた翔太は、下に置いてあった荷物を肩に掛けた。新幹線は、あと2分くらいで出発してしまう。 「翔太!」  新幹線の入り口から車内に足を踏み入れた翔太の背中に、翼は慌てて声を掛けた。 「これっ、ありがとうな。ホンマはめちゃ嬉しかってんで」  金色のメタルボタン。これを卒業式の後に、みんなの前で相田に渡すのを断った時、翔太はなんて言ったんだろう。 「知ってる」  翼の言葉に振り向いた翔太は、満面の笑みを浮かべてそう答えた。

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