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Growing up(1)

───────Growing up……  ********  買ったばかりのお気に入りのスニーカーは、ネイビーとグレーのツートン。最初に付いていた白い靴紐を外して、同系色の靴紐を通しながら、翼はふと思い出す。  ──この前、雑誌で見たハッシュ結びってやつ、どうやるんやったっけ……。  ゴソゴソとベッドの下に放り込んでいた雑誌を引っ張り出して、ページをペラペラと音を立たせながら捲る。  本当は、こんな悠長な事をしてるような時間はないのだけれど。 「あ、あった、あった、これや……」  探し当てた『男のオシャレは、足元から』と書かれたページを見ながら、翼は手早く紐を通し直す。  紐を通し終えたスニーカーは、いつもよりもちょっとだけお洒落でクールなイメージがした。 「やば、急がな……」  鞄の中に、財布、スマホ、一応着替え用のTシャツとタオル。それと、グラブが入っているのを確認して、急いで家を出た。  駅近くの、いつもの歩道橋の螺旋階段を一気に上り、改札を抜ける。ちょうど電車がホームに入ってきた。跨線橋を全速力で渡り、電車から降りてくる人の波を縫いながら、車内へと駆け込んだ。 (セーフ、セーフ……)  今日は、まだドアは閉まりかけていなかった。〝駆け込み乗車はご遠慮ください〟と車掌からの注意アナウンスも流れない。  翔太を新大阪まで送って行った日の夜、翔太からメッセージが届いた。  ただ『着いた』ことを知らせるだけの短いものだけど、その文字を見ただけで早く会いたいと思ってしまった。  昨夜遅くにやりとりした時に、明日、新神戸まで迎えに行くと言ったら、翔太が『お好み焼き食べたい』と言うので、その手前の駅で待ち合わせすることになった。  ──『早く会いたい』  翼がそう入力して送信しようとしたら、翔太の方が先に、その言葉を送ってきた。  ──「オレも……」  と打ち直して送信ボタンを押した後、恥ずかしすぎてベッドの上で転がりまわってしまった。  昨夜のメッセージのやり取りを思い返すと、つい口元が緩んでしまう。  次の駅で降りて、地下鉄に乗り換えた。待ち合わせの駅は3駅目。翔太はもう新神戸から地下鉄に乗っているだろうか……。  地下鉄に乗り換えてから、胸の鼓動がだんだんと早くなってくる。  緊張してるのとは違う。緊張していたら、こんなに身体は熱くならない。席は空いているけれど、座っているのがもどかしくて、翼はドアの側に立っていた。  次の駅で、電車がゆっくりと停車して、翼は乗り込んでくる人の迷惑にならないように、少し横に身を寄せた。  何気なくドア窓の外を眺めていると、その向こうに知った顔が見える。 「あ……」  ドアが開く前に、向こうも翼に気が付いて、大袈裟に手を振ってくる。  ────水野だ。  

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