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Growing up(4)

 待ち合わせ場所に一緒に行くと言っていた爽馬だったが、断固として譲らない水野に負けて、友人と約束をしている事もあり、その目的地に向かう為に乗り換えの駅へと去って行った。  翼は水野と一緒に、待ち合わせ場所の広場へ向かう。  地上へ上がると、暖かい春の空気に包まれる。駅周辺は電車を乗り換える人や待ち合わせをしている人で、どこも混雑していた。  人の波に流されながら目的の広場へ向かうと、大勢の人の中に立っている律の姿を、水野がすぐに見つけた。 〝パイ山〟と呼ばれる、石で造られたお椀型の山は広場内に三個ある。その中の一つの前に律は立っていた。その視線は手にしている本のページに落とされていて、前から歩いてくる水野に気付く様子は全くない。 「りーつ!」  目の前まで行って、水野が声をかけると、彼は読んでいた文庫本から漸く顔を上げる。ふわりと吹く柔らかい風にツヤのある黒髪がサラサラとなびき、本のページがパラパラとめくれる。  その一連の動きが、まるで映画の一場面のように見えた。  そして、今日の律は学校で見る彼とは、どこか違う。それが私服のせいだけではない事に、翼はすぐに気付く。いつもの黒縁の眼鏡を今日はかけていないのだ。  伏せた長い睫毛がゆっくりと上がり、水野を見上げたその瞬間に煌めいた黒い瞳が、雪のような白い肌に美しく映えていた。 「遅かったですね。5分も遅刻ですよ」  冷たい口調でそう言いながらも、薄っすらと頬を染めた律は、水野の少し後ろに立っている翼に気づくと、すぐに怪訝な表情を浮かべた。 「あっ、えと、さっき電車で偶然水野に会って……。オレもここでツレと待ち合わせてるから……」  自分は別に、邪魔をしに来たわけじゃないぞという事を伝えたくて、慌てて説明した翼に、律は「そうですか……」とだけ応えて、さっと視線を横に逸らした。 (あーぁ……オレ、なんかめちゃ嫌われてんぞ……) 「そそ、翼は今日、初デートやねんて。相手は翔太やで」  なんの躊躇もなく、はっきり言ってしまう水野を「おい……」と、翼はすかさず肘でつつく。 「ええやん……。()うといた方が、リッツも安心してくれるし……な? リッツ」 「別に……僕には関係ない事ですけど。でも良かったですね初デート」 「え……いや、まぁ……あはは」  ちらりと、こちらを見上げて言われた言葉に、翼は苦笑しながら、こう思う。 (──翔太、()()んかなぁ……)  待ち合わせの時間までには、まだ5分ほどある。翔太は新神戸に着いたら、その足でここに向かう筈だから、遅れてくる事はないだろうけど……。 (もう一本後の電車で来ても良かったな……)  と、翼は少し後悔をしていた。 「なぁ、翔太と、もうやったん? 初エッチ」 「はぁっ?!」  水野に突然耳元で囁かれて、翼は驚きの余り、素っ頓狂な声を上げてしまった。 「な、何()うとんや!」  翔太と……初エッチ……そこまで考えていなかった。  翼にとっては、重ねるだけのキスをした事だけで、もう胸がいっぱいで、その先を考えられないと言うよりも、すっかり忘れてしまっていた。  それだけ、今が幸せという事なのかもしれない──翔太に逢えるだけで、一緒にいられるだけで、心は満たされている。  それは、心が通じ合ったからこその幸せだ。

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