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Growing up(6)
「で? 翔太と翼は、昼飯どうするん?」
「オレら、お好み焼き食いに行こ言 うててん」
「お好み焼き? それならボク、安くて美味いとこ知ってんで」
元々、ここで待ち合わせをしてお好み焼きを食べようと計画していた。その事を言うと、水野がお勧めの店があると言う。
それで結局四人で昼食を食べようという事になった。
「水野、ええの? オレらと一緒に行っても……」
翼は、さっきからずっと黙ったままの律のことが気になっていた。
「ええに決まっとーやん。ボクも翔太とはまた暫く会えへんし、な? リッツええやろ?」
「……僕のことなら、気にしないで下さい」
律は、無表情でそう答えた。本当に大丈夫なのかどうかは疑問だったが、水野と律が先に歩き始めて、翼と翔太はその後をついて行く。
お好み焼きの店は、駅からすぐの商店街にあるらしい。
日曜日という事もあって、歩道はどこも混雑している。人の流れに合わせて歩かなければ、前から来る人にぶつかってしまう。
駅の北側にある飲食店が建ち並ぶ商店街へは、そんなに広くない道路にある短めの横断歩道を渡る。自動車の往来が多いわりに、ここには信号機という物が無い。
前を歩く水野と律を見失わないように、後ろからついて歩いていると、水野の手が、時々律の手に触れるのが見えた。
最初は時々、手の甲同士が触れ合う程度だったのが、段々と距離が近づいて、短い横断歩道を渡り出す頃には、いつの間にか二人は、さりげなく手を繋いでいる。
人の行き来が多過ぎて、周りはそれに気がつかないのか……。
なんだか、二人のその雰囲気が、とても自然に周りに溶け込んでいるような気がした。
翔太と二人で並んで歩いていると、時々肩が微かに触れ合う。そっと隣を見上げれば、翔太が気付いて「ん?」と、首を傾げる。
「いや、なんでもない」
翼は、口元を綻ばせて、そう答えた。
前を歩く二人が、ちょっと羨ましい気もするけれど、今は、翔太とのこの距離がとても心地良いと、翼は思う。
横断歩道を渡ってすぐの所の雑居ビルの二階に、そのお好み焼き屋があった。
狭い敷地に建っているそのビルには、エレベーターなんていう物は無い。
上から下りてくる人がいたら、すれ違えない程に狭い階段を上がると、〝お好み焼き〟と書かれたのれんが、すぐに目に入った。
「いらっしゃい! 何名様?」
店の戸を開けると、威勢のいい声が聞こえてくる。
「四人です」
水野が答えると、店の主人は「カウンターしか空いてへんけどええか?」と返してきた。
「おっちゃん、この店カウンター席しか無いやん」
水野が、笑いながらすぐにそう返す。
入り口から一人ずつ順番に入っていかなければ入れない、細長い店内には、本当にカウンター席しか無い。
この店の常連らしい水野は、いつもこのやり取りをするのが、お約束なんだと説明してくれた。
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