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Growing up(7)

「四名様ね。すんません、奥の席一個詰めたってくれる?」  細長い造りの店内の一番奥が三席空いていたので、先に座っていた客に一人分移動してもらった。 「すみません、ありがとうございます」  そう言いながら、水野は律を先に店内に入らせて、自分はその後について奥へと入って行く。翔太と翼も順番に二人の後に続いた。  必然的に奥から、律、水野、翔太、翼の順でカウンター席に並んで座る事になる。 「何しましょ」  席に着いたタイミングで、店主が小気味よいテンポで訊いてきて、四人は一斉に壁に貼ってあるメニューを見上げた。 「貝焼」 「モダン焼と、すじ焼」 「ちゃんぽんと、えび焼」 「オムそば」 「なんや、綺麗に全部違うのん選んだな。おっちゃん泣かせの注文や」  迷うことなく、四人がそれぞれに口にした注文に、店主は目を丸くして、そう言いながら笑う。しかし、その手は、もうお好み焼きを焼く作業に取り掛かっていた。  この店のお好み焼きは、最初に生地を薄くひき、その上にキャベツ、ネギ、具をのせて最後に生地を軽くかけて焼く〝うす焼き〟と呼ばれるもの。  カウンターの中には、店主と女性の二人だけだ。 「ご夫婦二人だけでやってるんやで」と、水野が教えてくれる。  カチカチと鉄板に起こし金の当たる音を立たせながら、職人技を見せてくれる店主と奥さんの、お好み焼きを焼き上げる一連の動きの息が合っていて、つい見入ってしまう。それと同時に、漂ってくる香ばしい匂いと、ジュージューという音に、口の中に唾が溜まってきた。  目の前で焼きあがっていくお好み焼きから目が離せない翼だったが、ふと、せっかく翔太が隣にいるのに、全然話をしていなかった事に気づく。  しかし横を見ると、翔太は隣に座っている水野と、何やら、二人だけに聞こえるくらいの小さな声で会話をしていて、翼が話しかける事のできる雰囲気ではなかった。  しかも翔太は殆ど身体を水野の方に向けていて、翼からは顔すら見えない状態だ。  二人の向こうに座っている律は、じっと店主の手元を見ているようだった。  翼は小さく息をつく。  こんなに近くにいるだけでも十分嬉しいのに、翔太と話している水野に、一瞬でもヤキモチを妬いてしまうなんて、どうかしてる。そう思って前へ視線を向けると、カウンター内にいる店主が、翼にニコッと笑いかけてくる。 「はい、お待ちどうさん」  そう言って、出来上がった貝焼を、起こし金で目の前に寄せてきてくれた。 「美味そうー!」  ジュージューと音を立たせているお好み焼きの表面に、刷毛でソースを塗り、粉カツオと青のりをかけている間に、他の三人の分も次々に出来上がって、目の前に置かれていく。  表がカリッと焼かれたお好み焼きをテコで切ってみると、高温でとろけたキャベツと大貝が、顔を覗かせている。 「あちっ…」  翼は、一口大に切ったお好み焼きをテコの上に乗せて、直接食べようとするが、あまりの熱さに口に入れる事ができなかった。 「慌てんな。誰も翼の分、取らへんから」  口元を押さえながら隣を見上げると、笑いながら、取り皿と割り箸を目の前に置いてくれた翔太と視線が合った。  その瞬間、翼は自然に満面の笑顔を翔太に向けていた。

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