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Growing up(9)
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電車で自宅近くの駅に戻り、五月のゴールデンウィークに二人でキャッチボールをした、緑地公園に向かう事にした。
改札を出てすぐの螺旋階段を、今日は翔太と二人で下りていく。階段が狭いから、先に行く翔太の後に翼が続く。
こうして後ろから階段を下りていると、翔太の頭よりも翼の目線の方が高くなる。普段なら絶対に見る事のできない高さに、翼はこっそりと口元を綻ばせる。
少し伸びてツンツンと立っている翔太の髪を、春の優しい風が揺らしていた。
不思議と今日は、螺旋階段の揺れが気にならないのは何故だろう。何とはなしに、そんな事を考えていると、不意に翔太が肩越しに振り向いて
翼を見上げてくる。
「あそこで飲み物 、買 ぉていこか」
そう言って、翔太はくいっと顎を上げ、階段を下りた先にある自販機を視線で指した。
「あ……うん」
それは、昔から変わらない翔太の仕草だ。
「あのな……オレ、前から思とったんやけど……」
この事は、今まで口に出して言ったことはなかったし、言うつもりもなかったけれど、なぜだか勝手に口が動いてしまう。
翔太は前を向いたまま、「んー?」と、間延びしたような返事をした。
「翔太って、今みたいに、そうやって顎をクイッて上げるの癖やろ?」
「え? 俺、そんな癖ある?」
翔太は、階段があと五段の所で、勢いよく下まで飛び降りて、後から下りてくる翼を振り返り、そう訊いてきた。
しかし、その瞬間、翼はそれどころではなくなってしまう。
翔太が、階段を強く蹴って飛んだから、大きな音と共に歩道橋全体がグラグラと揺れて、翼は思わず手摺りにしがみつくようにして足を止めた。
「お、まえ! 飛ぶなよな。揺れるやんか!」
さっきまで気にならなかった揺れが、一気に怖くなる。
「ごめん、そう言えば翼って、子供の頃から、この階段苦手やんな?」
そう言った後に、翔太は「ほら、掴まれよ」と手を伸ばす。
「……知っとったんか……」
「そうちゃうかなーって、思っとった」
歩道橋はまだ微妙に揺れていて、翼は、目の前に差し出された手に思わず掴まっていた。
翔太の手に助けてもらいながら、翼がゆっくりと残りの階段を下まで降りると、翔太はそのまま自販機に向かって歩き出す。
「お、おい、手……」
ここは、混雑した繁華街の歩道ではない。その上、二人の家の近所だ。男同士で手を繋いでいたら目立つし、知っている人間に見られてしまう可能性は高い。
翼は、慌てて手を引こうとするけれど、翔太に逆に強く引きよせられてしまう。
「……ええやろ。あそこの自販機までや……」
耳元にそっと落とされたバリトンボイスに心臓が跳ねた。こんな近くでその声を聞いたら、嫌だなんて言えなくなってしまう。
「……うん」
自販機までの、ほんの数メートル。ドクドクと脈を打ちながら、繋いだ手が熱くなっていく。その熱がどんどん身体中に広がっていくのを翼は感じていた。
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