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Growing up(10)

 繋いでいた手は、自販機の前で小銭を出す時に自然に離れた。  ガシャンと音を立てて出てきたスポーツドリンクを、身を屈めて取り出そうとする翔太の背中を見つめながら(さっき、言いそびれてしまったな……)と、翼は思う。  視線で方向を指す時に、顎をクイッと上げる翔太の仕草。  ──首筋から顎にかけてのラインが昔から好きやった。  そう言おうとしていたのだ。  骨張っていて男らしくて、なんとなく色気がある。  だけど、そんな事、言わなくてよかった。今思うと、なんで言おうとしたのか自分でも分からない。  緑地公園へ向かいながら、翔太はペットボトルの蓋を開け、こくこくと音を立てて500mlのスポーツドリンクを半分くらいまで一気に飲む。日に焼けた逞しい喉が上下した。 「──もう一本買っといたら良かった」  そう言って、残りも全部飲み干してしまう。 「公園の中にも自販機あったやろ?」 「そうやったっけ……」 「たぶんな」  三月の半ば過ぎにしては、今日はポカポカと暖かい春の陽気だ。少し体を動かせば、すぐに汗を掻きそうだ。  公園内のメインのグランドでは、今日もリトルリーグのユニフォームを着た子供達が練習をしていた。  そういえば、ゴールデンウィークにここでキャッチボールをした時は、夏のように暑い日だったなと、翼は去年の事を思い出す。  あの時は、公園内の中心にある噴水に、子供達が足を浸けて遊んでいたっけ。  だけど今日は、水に入って遊んでいる子供はひとりもいない。時々静かに上がる噴水が、春の日差しを浴びて、キラキラと光っていた。  噴水広場を通り抜けた所にある、ドングリの樹木が木陰を作っている小さな原っぱ。  去年と同じドングリの木の下に、翔太が大きな荷物を降ろした。 「オレ、今日はマイグラブ持ってきたで」  そう言って、翼はボディバッグを肩から外し、ファスナーを開ける。 (……っ?!)  しかし、ファスナーを開けた途端、目に飛び込んできた物に、翼は思わず息を呑んだ。  ボディバッグには、スポーツタオルと、汗を掻いた時の為の着替えのTシャツと、グラブがギュウギュウに詰め込んである。その一番上に、さっき水野が無理やり入れた物が入っていたのだ。  鞄の中がギュウギュウだから、下手すればファスナーを開けた途端に、それが飛び出してしまっていたかもしれなかった。 (……あっ、危なー!)  翼は、既のところで、それを手で押さえ、翔太に背を向けた。

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