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Growing up(11)
「どうかした?」
翼は翔太に背を向けたまま、水野が入れたそれをスポーツタオルの下へと押し込みながらグラブを取り出した。
こんな物を用意していたと、翔太に誤解されては困ると翼は思っていた。
(水野が無理やり入れたって説明するのも、何か言い訳がましいような気ぃするし……)
「いや、なんでもない……ほな、やろか」
何もなかったような顔で、翼はグラブを左手に着けて、翔太から距離を取る。
「あんまし強い球投げんなよ! 受験生は運動不足なんやからな」
十分な距離を空けて振り返った翼に、翔太は「分かってる。ウォーミングアップからや」と言って、ゆっくりと山なりのボールを投げた。
翔太の言った通り、スローなペースでボールがグラブに飛び込む音が暫く続く。
「そろそろ、ええか?」
ボールを投げながら翔太が突然そう訊いてくる。
「そろそろって……何がや?」
首を傾げながらそう言って投げ返すと、翔太は腕を大きく後ろへ引き、下から掬い上げるようなフォームで、その指先からボールを放つ。
水色の空に吸い込まれるように、白球が溶け込んでいく。
「ちょ……っ!」
翼の足が、前後に迷う。
「翼、前や!」
ボールは高い位置まで上がって、翼の立っている所よりも、かなり前に落ちてくる。
全速力で前進し、落下地点でグラブを構えると、白いボールに太陽の光が重なった。
──眩しっ!
そう思った瞬間、バシッという音と共にグラブの中にボールが収まった。
「ナイスキャッチ」
「お前な~。やるならやるって言えよ」
文句を言いながらボールを返した翼に、翔太は楽しそうに笑う。
「そろそろええかって、訊いたやろ」
そう言いながら、もうボールを投げる体勢に入っている。
「次は右やで!」
言葉と共に、今度は立っている位置よりも左に離れた所へ、翔太の本気の剛速球が飛んでくる。
「ちょっ!」
翼は、殆ど条件反射のようにグラブを出して捕っていた。
「ナイス!」
その後も、左右前後にボールを振られ、わざとワンバウンドさせた球や、超スピードで地面を転がってくるゴロまで捕らされた。
キャッチする度に、翔太が「ナイス!」と言ってくれるのが、ちょっと嬉しい。だけど……
「ま、待って、ちょっと……」
運動不足気味の身体には、かなり厳しい。息が上がるのも早かった。
「ほな、休憩しよか」
翔太は、悪戯っぽい笑みを浮かべて翼に歩み寄ってくる。
「翔太……お前って、ドSな鬼コーチ……」
肩を上下させながらそう言って、翼は近づいてきた翔太を見上げた。
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