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Growing up(12)
「でも、ちゃんと全部捕ってたやん。運動不足やのに、さすがやな」
そう言って、翔太は大きな手で翼の髪をクシャクシャと撫でる。
「体育の成績だけは良かったからな。でも今のは、かなりキツかったで!」
翔太にボールをあちこちに散らされて、ずっと走っている状態だったから、さすがにキツい。なかなか息が整わず、ハァハァと荒い呼吸を繰り返す翼を、翔太はドングリの木の下に腰を下ろして見上げた。
「……翼、大学入ったら野球やれよ」
「えー? ムリムリ。大学の野球部なんて、ずっとやってる上手い奴ばっかりなんちゃうん。……はぁ〜喉渇いた……」
翼も、翔太の隣に腰を降ろし、さっき自販機で買ったスポーツドリンクのペットボトルの蓋を開ける。
「野球部じゃなくても、野球サークルとかでもええやん。K大には、いっぱいあるんちゃう?」
コクコクと喉を鳴らしながら飲んでいる途中でそう言われて、翼はペットボトルに口を付けたまま「んー」と、返事をして、隣の翔太を見上げる。
あまりにも勢いよく飲んだから、口端から少量のスポーツドリンクが流れ落ちていて、翼は慌てて濡れた口元を指先で拭った。
すると、翔太がじーっと、こちらを見つめてくる。
(あっ……そうか……)
それで翼は、ある事に気付いて、飲んでいたスポーツドリンクを翔太の目の前に差し出した。
「……飲む?」
さっき買ったスポーツドリンクを、翔太はここに来る途中で全部飲み干してしまっていた。
飲み物の自販機は、緑地公園の敷地内にある図書館や会議室などが入っている建物の辺りには、たぶんある筈だが、そこを通らなかったから、買えなかったのだ。
「あ……サンキュ」
翔太は、差し出されたペットボトルを、そう言って受け取り、一口だけ喉へと流し込む。
「もっと飲んでもええで?」
「あ……いや……そんなに喉が渇いてたわけじゃないから……」
「そうなん? なんか、じーっと見てたから欲しいんかと思った……」
そう言いながら、翼が返されたペットボトルを受け取ると、不意に翔太の手が頬に触れてくる。
「いや……なんか……飲んでる顔が可愛くて……」
「──なっ……何言うとぉ……」
少し照れたような表情で、それでも視線を逸らさずに、そんなことを言う翔太に、翼の方が顔が熱く火照ってしまう。
それに、なんだか────
翔太が少しずつ顔を近づけてくる。
大きな手が、熱くなった翼の頬を滑り、指先で唇をなぞる。
「間接キスじゃなくて、本当のキスしてええか?」
全身が心臓になったみたいに、ドキドキと脈打った。一瞬で身体が強張ったのが自分でも分かる。
(──そんなこと……訊かんでええ……)
本当は、そう言いたかったけれど、言葉にする事ができなくて、翼は返事をする代わりに、ゆっくりと目を閉じた。
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