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Growing up(13)
目を閉じていても、近づいてくるのが気配で分かる。
全身が固まってしまったように緊張している翼の唇に、しっとりとした柔らかい感触が触れたのは、一瞬だけだった。
一瞬で離れてしまった唇を追うように、翼は閉じていた目を開ける。
だけど、翔太の顔は翼の目の前にある。そして、離れたと思っていたお互いの唇は、まだ微かに触れ合う程に近い位置にあった。
「……翔……っ、ん……」
不思議に思って、上目遣いに名前を呼ぼうとした翼の声は、途中で途切れさせられた。ちょうど半開きになっていた翼の唇を、翔太の唇で覆い被すように口づけられたのだ。
その弾みで、カチッと僅かに歯が当たってしまう。
「──……ごめん」
翔太はそう言って、静かにひとつ息を吐く。まるで小さく深呼吸をしているみたいに。
翼の肩に置いている手が少し震えているように思えた。
──きっと……翔太も、緊張してるんだ。
そう感じた翼は、「ううん……」と首を横に振り、もう一度目を閉じた。
翔太も自分と同じように緊張することがあるんだな……そう思うと、なんだか嬉しいような気持ちになって、さっきまで固く強張っていた身体から、少しだけ力が抜けた。
今度はゆっくりと唇が重なる。柔らかく上唇を吸われ、小さなリップ音が立った。
翔太は続けて、角度を変えて唇を重ね直し、同時に舌で翼の閉じた唇をゆっくりとなぞる。そのまま、力が抜けて弛んでいた翼の唇を割り、翔太の舌は難なく咥内へ入ってきた。
「……ん……っ」
舌を入れられると思っていなかった翼は、少し驚いて僅かに頭を後ろへ引く。しかし背後のドングリの木の幹に、そのまま後頭部が押し付けられる形になった。
初めてのディープキス。それは、想像していた以上に、官能的だった。
最初は遠慮がちに侵入してきた翔太の舌は、段々と大胆に翼の咥内を荒らしていく。戸惑って奥へと逃げる翼の舌を絡め取り、擦り合わせ、それはまるで咥内を泳ぐように蠢いた。
歯列を確認するようになぞり、上顎を擽られると、全身から力が抜けて肌が粟立っていく。
──これが本当のキス?
夏祭りの時にしたキスは、新幹線が出発する前にしたキスとは違っていた。そして今日のキスは、そのどちらとも違う。
口の中の、こんな所が感じるなんて、思ってもみなかった。
「……っ……ん……ふ……ぅ」
翼は、重ねた唇の隙間から、自分でも気づかないうちに、甘い吐息を漏らしていた。
初めて感じる感覚が少しだけ怖くて、翼は僅かに顔を逸らして逃げを打ってしまう。
だけど翔太が、すかさず角度を変えてまた唇を重ね直すと、キスは更に深くなる。
激しく絡めてくる翔太の舌に、気が付けば翼も夢中で応えていた。
唾液が混ざり合い、咥内で熱の籠った水音が立ち始め、やがて、翔太が絡め取った翼の舌を柔らかく吸い上げて、導くように自分の咥内へと誘う。
翼は、翔太にしてもらったのと同じように、彼の熱い咥内に舌を滑り込ませ、今までの想いを注ぎ込んでいく。
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