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Growing up(18)

 風呂から上がると、バックに着替えと歯ブラシを詰め込んで家を飛び出した。 「ちょっと翼、髪の毛乾いてないやん」 「大丈夫や。翔太んち、そんな遠くないし」  母の章子に止められそうになったけれど、翼は早口でそう返して、玄関のドアを閉めた。  時間はもうすぐ8時になろうとしている。外はすっかり夜の闇に包まれていて、海側へ広がる街の夜景がキラキラと輝いているのが見えた。  坂道を下ると、昨日翔太と別れた広い道の交差点が見えてくる。翼はその手前のコンビニに寄っていく事にした。  もしも、気まずい雰囲気になったら、とりあえず何か口に入れてればいいような気がして、あれこれとおやつを物色していた。 (あんまし意味ないような気もするけどな……)  アイス用の冷凍ショーケースの前で立ち止まり、ちょっと考えてソーダアイスとクランチアイスもカゴに入れていく。  翔太の家は、横断歩道を渡ってすぐの所に建っている14階建てのマンションの最上階にある。卒業した高校の第二グラウンドの後ろに建っているのと同じマンションで、ここが一番最初に建った一号棟である。  横断歩道を渡り、マンションの入り口までの急な坂道を駆け上がり、エントランスから大きなホールに入ると、右に3基、左に2基のエレベーターがある。右側は各階に止まるが、左側の2基は10階まで止まらない。  翼は迷わず、ちょうどドアが開いていた左側のエレベーターに乗り込んで、14階のボタンを押した。  翔太の家に来るのは、小学校の時以来じゃないだろうか。小さい頃はお互いの家をよく行き来していた。  小高い丘の上に位置するこの地域は、翼の家のように一戸建ての家からでも海まで見渡せる程、見晴らしがいい。だけど14階にある翔太の家から見る景色とは比べ物にならない。  小さい頃は、遠くの景色を見るのは平気だったが、14階の窓から真下を見るのはちょっと怖かったな……と、あの頃の事を思い出すと自然に口元が綻んだ。  エレベーターは14階までノンストップで、あっという間に着いてしまう。扉が開くと、忘れていた緊張が少し蘇ってきた気がする。  これから朝まで、翔太とずっと二人だけで過ごすのだと思うと、すごく嬉しくて楽しみなのに、だけどやっぱり少し怖い。  胸の奥がきゅーっと締め付けられる。  ふわふわと身体が浮くような幸福の予感と、翔太は本当に自分でいいんだろうかという不安が、交互に胸の中を支配した。  エレベーターを降りて、通路の一番端、角部屋の前で足を止めて、ドキドキする胸を手で押さえながら、翼はインターフォンのボタンを押した。

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