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Growing up(19)

 部屋の中から聞こえてくるインターフォンの〝ピンポーン〟という音が鳴り終わらないうちに、玄関のドアがガチャリと開いた。 「……遅かったな、翼」 「お、おぅ、悪い。コンビニ寄ってたから……」  もしかしてドアの前で待ってたんじゃないかと思うくらいに、翔太が出てくるのが予想外に早くて、翼は少し狼狽えながら、コンビニの袋を差し出した。 「めっちゃ、ようけ買ぉてきたな……おっ、アイスもあるやん、風呂から上がったら食うか?」  袋の中を覗きながら、翔太はそう言って、キッチンの方へと向かう。 「あっ、オレ、もう家で風呂入ってきてん。そやからアイス今食べるわ」  慌てて追いかけていくと、翔太は冷凍庫にアイスを入れて、扉をパタンと閉めたところだった。 「入ってきたんか?」  そう言いながら伸びてきた翔太の手が、髪に触れる。翼は思わず視線を横へと逸らした。 「なんや、髪、まだ濡れてるやんか。風邪引くやろ?」 「え? 大丈夫や、これくらい……もう殆ど乾いとぉやろ?」  風呂から上がって、バスタオルで簡単に水気を拭っただけで、すぐに家を飛び出してきた翼の髪は、確かに表面は乾いているが、根元の方は翔太の言う通り、まだ湿っていて、夜風にあたったせいか冷たくなっていた。 「あかんって、ちょっとこっち来い」 「え? ちょっ、(なん)や?」  翔太は手首を掴み、有無を言わさず洗面所に引っ張っていく。洗面台の横のキャビネットからドライヤーを取り出すと、ブラグをコンセントに射し込んでスイッチを入れる。 「あっ、ええって。オレ自分でやるから!」 「ええから、じっとしとき」  次の瞬間には、上から髪に温かい風が吹き付けられた。  ドライヤーの風を当てながら、翔太の指が翼の髪を、優しく撫でるように梳いていく。  翼が、チラリと洗面台の鏡を横目で見ると、二人で向き合っている姿が映っている。  こうやって並んでいると、本当に体格の差がはっきりと分かる。前へ視線を戻すと、俯き加減の翼の目の前には逞しい翔太の胸が広がっていた。 「お前は、オレのおかんかよ……」  翼は口元を尖らせて、視線を明後日の方向に逸らす。急激に胸がドキドキと高鳴るのを誤魔化したいだけだった。 「へぇ……。翼って、おばちゃんにこんな事してもらっとん?」 「……アホ! ものの例えやっちゅーの」  なのに、からかうような言葉に、ついムキになって翔太を見上げてしまう。  そんな翼に、翔太は切れ長の目元を柔らかく細めて微笑んだ。 「やっと目ぇ合わせてくれたな、翼……」

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