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Growing up(20)
「……なっ? オレ別に……」
別に、翔太と目を合わないようにしていたつもりはなかった。だけど知らないうちに、そんな態度をとっていたのかもしれない。
気まずさにまた目を伏せると、翔太は翼の髪をくしゃくしゃとかき混ぜて、「はい、乾いたで」と言ってクスッと笑い声を洩らした。
「んじゃ、俺も、シャワーしようかな……」
ドライヤーをキャビネットに片付けて、翔太が突然目の前で服を脱ぎ始める。
翼は慌てて、くるりと背を向けた。
「ほ、ほな、オレは、アイスでも食べよっかなー」
そう言って、洗面所から出て行こうとすると、Tシャツをたくし上げ、頭から脱ごうとしている翔太のくぐもったような声が聞こえてきた。
「んー。テレビでも見て待ってて」
「うん、そうする……」
翼は翔太に背を向けたまま応えて、洗面所のドアを後ろ手にパタンと閉めた。
──顔が熱く火照ってしまう。
翔太は、どうして平気なんだろう。自分だけがこんなにドキドキして意識してしまっている。それがまた、翼の気持ちを不安にさせていた。
翼は、冷凍庫から、さっき入れたばかりのソーダアイスを取り出して、リビングへと向かう。
リビングの壁一面の大きな掃き出し窓を開けると、バルコニーに出る。その向こうには、海までの美しい夜景が煌めいていた。
1000万ドルと言われるこの街の夜景だが、このバルコニーからも十分にその別世界を味わえる。
袋から取り出したアイスの先を口に含みながら、バルコニーの手摺りから真下を覗くと、夜風に吹かれて寒いからなのか、それともやはり怖いからなのか、翼はブルッと身震いをした。
下にはマンションの敷地内に造られた小さな公園が、街灯の灯りに照らされていた。ジャングルジムやブランコや鉄棒、砂場と、一通りの遊具が揃っていて、それは幼い頃、翔太と遊んでいた時と変わらない景色だ。
あの頃は、何も考えずに、只いつも一緒に居た。それが当たり前で、その関係は永遠に続くと思っていた。
いつの間にか翔太を意識するようになって、その関係が少しずつ変化して、そして翔太も同じ気持ちだと言ってくれて……その事がとても幸せで。
明日の朝を迎えたら、また何かが変わってしまうのだろうか。
もしも……翔太が、男同士の関係に少しでも戸惑っているのだとしたら……、この流れのままに進んでもいいんだろうか。
翔太は優しいから、〝やっぱり無理だ〟なんて相手を傷つけるようなことは言わないだろう。
それなら……自分から止めようと切り出した方がいいのかもしれない。
──だけど……。
そこまで考えて、翼はそっと息をついた。
アイスに歯を立てて齧ると、サクッと音が小さく響く。
いつも翔太が、クランチアイスを美味しそうに頭からガシガシと齧って食べているのを思い出して、真似をしてみたくなったのだ。
「冷たっ……」
口の中のアイスはなかなか溶けなくて、舌が痺れるくらい冷たい。それでも翼は残りのアイスを、ガシガシと全部齧って食べてしまった。
「やっぱり……アイスは舐めて食べるのが一番美味いやん」
アイスを食べたせいか、少し寒い。
日中は暖かくなったけれど、14階のバルコニーに、時折吹き抜けていく三月の夜の風が、余計に身体の芯まで冷やしてしまう。
「寒っ……」
肩を竦めながら、翼はリビングに戻る。
テレビを点けてソファーに腰を降ろしたところで、浴室のドアが開く音が聞こえてきた。
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