165 / 198

Growing up(21)

 翔太がリビングに入ってきたのを視界の隅に捉えながら、翼はテレビの画面を見ているふりをする。  何かの番組の間のCMが流れているけれど、その内容はまったく頭に入っていない。意識はキッチンへと入っていった翔太に集中していた。 「俺もアイス食べよかな」  テレビの音よりも、翔太の独り言のような小さな声を先に拾ってしまう。  アイスの外袋を破く音、ゴミ箱の蓋を開ける音。──そして、こちらへ近づいてくる翔太の足音。 「何観てんの? ドラマ?」 「……んー、今点けたばっかやから、分からん……」  すぐ近くに立って話しかけてくる翔太の視線を感じながら、翼はテレビの画面を見つめたまま答えた。 「ふーん」  一人分の距離を空けて、翔太が隣に腰を降ろすと、ソファーが重く沈んで揺れた。そんな些細なことにさえ、身体が跳ねそうなくらいにドキドキしてしまう。  一人分の空間があるのに、翔太に近い方の左の肩が、熱く火照っていく。  ──サクッ……と、クランチアイスを齧る音が、テレビの音よりも大きく響く。 「……なぁ?」 「ん~?」  問いかけられても、テレビの画面から視線を外さずに、わざと気の抜けたような返事を返すと、「食う?」と目の前にクランチアイスが差し出された。  もう一口しか残っていないアイスは、バーの真ん中より下のところにくっついていた。  そっと横を見上げると、翔太がニッと、子供みたいに悪戯っぽい笑みを向けてきて、翼は思わず、「うん」と頷いてしまう。  だけど、受け取ろうとバーの部分を持とうとすれば、翔太は、クイッと、アイスを持っている手を後ろへ引いた。 「なんや? くれるんちゃうんか?」  恨めしそうに翔太を見上げた翼の目の前に、翔太はもう一度アイスを差し出した。 「いや、そやから……このまま食うて?」 「はぁ?」  そんな恥ずかしいことできへんわ!  と言いたかったが、翔太は翼の唇にアイスを押し当ててくる。  仕方なく翼は、少し首を横に傾げながら、チョコレートの着いた側面を唇に挟むようにして咥内に含む。その瞬間に唇の内側でチョコレートがじわりと溶ける感触がした。  最後に一口だけ残ったアイスは、それでなくても食べにくい。下手をすると齧った途端に反対側が落ちてしまう。 「……舐めんと、思いきって齧って?」  慎重になっていると、頭の上から急かすような声が落ちてくる。 (わ、分かっとーわ!)  文句を言い返したいところだが、それも叶わず、翼は落ちても受け止めれるように、アイスの下に手を添えて、言われた通りに側面に歯を立てて齧りつく。 「ん、んっ」  やっぱり、反対側のチョコレートが崩れ、アイスのかたまりが手のひらの上に落ちてしまう。 「あー、やっぱり落ちてしもたやん……」  そう言いながら、翼が手の上に落ちたアイスを、そのまま口の中へ放り込んだその瞬間だった。 「下手くそやな。翼……」  チョコレートで汚れた唇を、翔太が指先で拭いながら、顔を近づけてくる。 「下手くそって、なんや……」  翔太との距離があまりに近くなりすぎて、翼は思わず頭を僅かに後ろへと引く。

ともだちにシェアしよう!