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Growing up(21)
翔太がリビングに入ってきたのを視界の隅に捉えながら、翼はテレビの画面を見ているふりをする。
何かの番組の間のCMが流れているけれど、その内容はまったく頭に入っていない。意識はキッチンへと入っていった翔太に集中していた。
「俺もアイス食べよかな」
テレビの音よりも、翔太の独り言のような小さな声を先に拾ってしまう。
アイスの外袋を破く音、ゴミ箱の蓋を開ける音。──そして、こちらへ近づいてくる翔太の足音。
「何観てんの? ドラマ?」
「……んー、今点けたばっかやから、分からん……」
すぐ近くに立って話しかけてくる翔太の視線を感じながら、翼はテレビの画面を見つめたまま答えた。
「ふーん」
一人分の距離を空けて、翔太が隣に腰を降ろすと、ソファーが重く沈んで揺れた。そんな些細なことにさえ、身体が跳ねそうなくらいにドキドキしてしまう。
一人分の空間があるのに、翔太に近い方の左の肩が、熱く火照っていく。
──サクッ……と、クランチアイスを齧る音が、テレビの音よりも大きく響く。
「……なぁ?」
「ん~?」
問いかけられても、テレビの画面から視線を外さずに、わざと気の抜けたような返事を返すと、「食う?」と目の前にクランチアイスが差し出された。
もう一口しか残っていないアイスは、バーの真ん中より下のところにくっついていた。
そっと横を見上げると、翔太がニッと、子供みたいに悪戯っぽい笑みを向けてきて、翼は思わず、「うん」と頷いてしまう。
だけど、受け取ろうとバーの部分を持とうとすれば、翔太は、クイッと、アイスを持っている手を後ろへ引いた。
「なんや? くれるんちゃうんか?」
恨めしそうに翔太を見上げた翼の目の前に、翔太はもう一度アイスを差し出した。
「いや、そやから……このまま食うて?」
「はぁ?」
そんな恥ずかしいことできへんわ! と言いたかったが、翔太は翼の唇にアイスを押し当ててくる。
仕方なく翼は、少し首を横に傾げながら、チョコレートの着いた側面を唇に挟むようにして咥内に含む。その瞬間に唇の内側でチョコレートがじわりと溶ける感触がした。
最後に一口だけ残ったアイスは、それでなくても食べにくい。下手をすると齧った途端に反対側が落ちてしまう。
「……舐めんと、思いきって齧って?」
慎重になっていると、頭の上から急かすような声が落ちてくる。
(わ、分かっとーわ!)
文句を言い返したいところだが、それも叶わず、翼は落ちても受け止めれるように、アイスの下に手を添えて、言われた通りに側面に歯を立てて齧りつく。
「ん、んっ」
やっぱり、反対側のチョコレートが崩れ、アイスのかたまりが手のひらの上に落ちてしまう。
「あー、やっぱり落ちてしもたやん……」
そう言いながら、翼が手の上に落ちたアイスを、そのまま口の中へ放り込んだその瞬間だった。
「下手くそやな。翼……」
チョコレートで汚れた唇を、翔太が指先で拭いながら、顔を近づけてくる。
「下手くそって、なんや……」
翔太との距離があまりに近くなりすぎて、翼は思わず頭を僅かに後ろへと引く。
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