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Growing up(35)
その日は、疲れ切って二人して爆睡して、目が覚めた時には、もう昼を大分過ぎていた。
「翔太んちの親、いつ帰ってくるんだっけ?」
「明日の昼頃かな……」
「そっか」
じゃあ、明日の朝には家に帰らないといけないなぁ。そう思って、翼は小さく息をつく。
「どっか、出掛ける?」
「え? 今から?」
遅くに起きて、シャワーして、翔太のお母さんが作り置きしてくれていたカレーを腹一杯食べたら、まだ夕方だというのに、また睡魔が襲ってきていた。
「今からは……ちょっと……」
──動きたくない……というか、さすがに動けない。
昨夜、翔太を何度も受け入れて、その余韻が残っている。身体の怠さは誤魔化しようもなかった。
夕映えが部屋を暖かい色に染めていて、ソファーに座っている翔太の膝を枕代わりに、翼は微睡みに身を任せる。
髪を撫でてくれる翔太の手が心地よい。
そう言えば……と、去年のゴールデンウィークに、翔太が翼の膝の上で眠っていた事を思い出して、思わず口元が緩んだ。
「今、じゃなくて……明日……」
「ああ……明日なら……」
翔太の言葉に、翼は目を閉じたまま答える。
明日なら、動けるかな。
「で? どっか行きたいとこあるん?」
これってデートだよな。と、翼は思った。それなら、ちょっとくらい身体が怠くても出掛けたい。翔太が東京に行ってしまうまで、できるだけ一緒に居たかった。
「……バッティングセンターとか」
「えー?」
翔太の言葉に、翼は閉じていた目を見開いた。
仰向けに膝枕をしてもらっていたから、翼を見下ろす翔太の顔が目の前にある。
「どんだけタフなんや……翔太……」
「無理か……?」
「……いや……オレも久しぶりに打ってみたい」
今日ぐっすり眠ったら、きっと明日には身体も復活してるだろうし……。
「その代わり、今夜は何もせんと寝るで」
釘を刺す言葉を口にしてから、翼は重くなってくる瞼に抗えずに、また目を閉じる。
「ああ、分かってる。これ以上したら、俺も腰がヤバい……」
そう言ったくせに、翔太は膝の上で目を閉じている翼の唇に、ふわりと唇を重ねた。
「……ん、……あかんて……」
「……分かってる」
傍にいると、どうしても相手に触りたいと思ってしまうのは、お互いに同じ。触れてしまえば、火がつくのも早い。残されている時間があまり無いと
いうのも、その気持ちに拍車をかける。
だけど翔太は、言葉通りに、それ以上はしてこなかった。
その代わりに、突然頬を両手摘まれて、左右にぎゅっと引っ張られた。
「……ひ、はいっ(痛い)」
驚いて目を見開いて訴えると、悪戯っぽく笑う翔太の顔がすぐ傍にあった。
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