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Growing up(38)
ずっと心に秘めてきた想い。
翔太が自分を〝好き〟になってくれるなんて、そんな奇跡は起こるはずがないと思っていた。
だけど、境界線を越えるのを、ずっと昔から躊躇っていたのは、翔太も同じだった。
「夏休みには、帰ってこれるん?」
「試合や合宿もあるから、いつになるかよう分からんけど……帰ってくるよ」
遠回りをして、やっと想いが通じ合えたのに、一緒にいられる時間はあと数日だけ。
寂しさや不安が無いと言えば嘘になる。
「オレ、バイトしてお金貯めて、ほんで翔太の試合観に行くわ」
結構真面目にそう言ったのに、翔太はクスクスと笑い声を洩らした。
「まだ試合には、当分出させてもらえへんよ」
だけど翔太なら……きっとすぐに試合で活躍する姿を見せてくれると思う。寂しいけど、野球をしている時の翔太が好きだから逢えなくても我慢できる。
その時が来たら、翼はまたカメラを担いで応援しに行くだろう。
「暫く逢えないけど、毎日、メールするから……」
翼が「うん」と応えると、翔太は翼の額を指先でチョンと軽くつついて笑う。
「だから、今度はちゃんと返信せぇよ」
「ちゃんとするって。翔太モテるから心配やし、毎日メールでチェックする」
冗談半分、本気半分で言った言葉に、翔太は少しムッとした表情を浮かべた。
「それは、こっちのセリフ。翼は年上にモテるからな……」
「そんな事ないわっ」
どんなに遠く離れていても、この気持ちは変わらないと、自信を持って伝えたい。
──今までと同じように、これからも、きっと〝好き〟という気持ちは変わらないと……。
「あ、そうや。翔太に渡したい物があったんや……」
ふと思い出して、翼は床に置いてある自分の荷物に手を伸ばした。
ゴソゴソと鞄の中を探って、取り出した物を手の中に握り翔太の前に差し出した。
「ほら……手ぇ出して」
そう言って、翼は顔を真っ赤にした。
(──これ渡すのって、思ってたよりも、めっちゃ恥ずかしいな……)
そう思いながら、翔太の手の上に、コロンとそれを載せた。
「……これって……?」
翔太は、少し驚いたような表情を浮かべて翼の顔を見る。
「あ、言 うとくけど、それ、オレの制服のんやからな!」
それは金色のメタルボタン。表面にプレスされているのは、卒業した高校の校章をデザインしたもの。
「これ、翼の制服の第二ボタン?」
「……そう。〝一番大切な人〟に渡すもんなんやろ? それ……」
翼の言葉は途中で途切れてしまった。翔太に力強く抱きしめられたから。
「……俺、頑張るから」
「……うん」
「大学卒業したら、タイガースに入団するから……」
「えっ?」
あまりにもはっきりした球団名に、翼は驚きの声を零した。
抱きしめられた腕の中から見上げると、優しい瞳に心を包まれる。
「……そしたら、一緒に住もか」
そう言葉を続けて、翔太は最高の笑顔を翼に向けた。
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