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それから~epilogue(1)
──────── それから~ epilogue
……数日後、翔太は東京へ戻って行った。
そして、カレンダーは四月になり、翼は大学生になった。
翼は、今まで通学に電車を使った事がなかった。だから、たとえ一時間以内の距離でも、電車を乗り継いで通学する事に慣れるまでには、まだ少し時間がかかりそうだ。
慌ただしく一週間が過ぎて、オリエンテーション期間も終わり、本格的に前学期授業が始まっている。
見頃を過ぎた桜の花弁が、風に吹かれて駅から大学までの坂道に舞っている中を歩いていく。
卒業して以降は、瑛吾や健とも、スマホで連絡を取り合う事もなくなってきた。
水野とも、一緒にお好み焼きを食べに行ったあの日以来、連絡もしていないし、偶然に会う事もなくなった。
それぞれが、新しい生活をスタートさせていて、今はきっと、それに慣れようと、みんな頑張っている。
翔太も──
だけど、意外にも翔太は、〝毎日メールする〟という約束を今のところ守ってくれている。
メールだけでなく、時々は電話もかけてくる。
翔太がこんなにマメな男だったなんて、知らなかった。それに、口数の少ない翔太が、電話だとよく喋る事も初めて知った。
毎日連絡していても、何故か話したい事がなくならない。翔太も翼も。
どんなに小さな出来事も伝えたくなる。
『早 よ寝な、あかんのちゃう? 明日も朝早いんやろ?』
練習で疲れているだろうと気遣って、電話を切ろうすれば『あと5分だけ』なんて、意外な言葉が返ってきた。
今まで知らなかった翔太を次々と発見できるのも、遠距離になったからこその楽しみなのだろう。
昨日の夜の会話を思い出しながら、翼はクスッと小さく笑いを零した。
「翼」
大学に着き、教室へ向かう途中にあるライブラリーセンターの前で、知った顔に呼び止められた。
入学してから知り合った、同じ学科の友人だ。
「なんか、二限目休講だって……掲示板に出てた」
「うそー、休講情報に出てたんかな……」
スマホで、学生ページを確認すると、本当に休講になっている。
「せっかく来たのにな……」
午後からも授業はあるが、かなりの時間を潰さないといけなくなった。
「学食にでも行く?」
友人がそう言った時だった。
「つーばーさー!」
後ろから、どこかで聞いた事がある声に大声で名前を呼ばれて、翼は驚いて勢いよく振り返った。
「──なんで? こんなとこにおるん?」
手を振りながら、駆け寄ってくる長身の男。──水野だ。
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