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それから~epilogue(2)

「久しぶり、翼。いや~、大学って無駄に広過ぎて、なかなか会えへんもんなんやな」 「いや……だから、なんで水野がここに()んの?」  まるでここに居る事が当然のような顔をして話しかけてくる水野に、思考がついていけない。 「お前、国立に行ったんじゃなかったん?」 「イヤやわぁ、なんでそんな傷を抉るような事言うの? 翼ったら酷い……」 「あ、落ちたんか……」  国公立前期試験の合格発表は、確か卒業式の数日後に集中していた。水野とは電話でも話したし、お好み焼きを一緒に食べに行ったりもしたけれど、そう言えば、そんな話は一度もしていなかった。てっきり合格したものだと、勝手に思い込んでいたのだ。 「そんな、はっきり言わんとって。胸に突き刺さるわ~」  だけど、笑いながらそう言った水野の表情は、どこか清々しくて、落ち込んでいる風には見えなかった。 「先に学食に行ってるな」と、手を振って離れていく友人を見送って、翼は水野と一緒に何処に行くともなく歩き出した。  広い敷地内には、行った事のない場所がまだたくさんある。  大学の中央に広がる緑の絨毯のような芝生を眺めながら、その中を通る石畳の道をなんとなくブラブラと歩く。 「まさか落ちてるとは思わんかった……」 「まぁ、兄貴が通ってる大学やからって、なんとなく目標にしてただけやから、別にええねん。ここやったら翼もおるし、楽しい学生生活送れそうやから、これで良かったと思ってるしね」  ニコニコしながら、肩を抱き寄せようとする腕を躱し距離を取ると、「相変わらずつれないわ」と、水野は苦笑いを零した。 「でも、水野が同じ大学を受験してたなんて知らんかった」 「あれ? 翔太から聞いてなかった?」 「聞いてへん……翔太は知ってたんか……」  翔太は、何でも話してくれていると思っていただけに、少し引っかかりを覚える。なんで教えてくれなかったんだろうと。 「まぁ、翔太は翔太で、翼はもうとっくに知ってると思ってたんかもね」 「そう、なんかな……」  小さく息をついた翼に、水野はクスッと笑いを零した。 「翔太がいなくて寂しいなら、いつでもボクが慰めてあげるで」

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