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それから~epilogue(3)

「またそんな事()うて。翔太とは毎晩メールもしてるし、マメに電話もかけてきてくれるし、寂しくなんかない」  全然寂しくないって言えば嘘になるけど。 「へぇ? あの翔太が? 意外やな……あ、そういや、こないだのローションどうやった? 使い心地良かった?」 「…………」  翼はすぐに言い返せずに、思わず黙り込んでしまった。思い出しただけで顔が熱くなっていく。水野に会ったら、文句の一つでも言ってやろうと思っていたのに。 「あれ? 声も出せんくらい良かったんや?」 「……うるさいな……」  耳まで真っ赤にして顔を背けてしまう翼に、水野はクスクスと可笑しそうに笑う。 「また今度、ええのがあったら()うとくから、ボクと試してみる? 電話で声が聞けても、それって、余計に身体が寂しいやろ?」 「あ、あほな事言うな! お前には律くんがおるやろ?」  驚いて慌てて振り返ると、水野は「冗談、冗談」と言いながら、声をあげて笑い出した。  水野の言う事はいつも、どこまで本気なのか冗談なのか、翼には判断がつかない。 「お前、そう言えば、律くんとはいつから付き()うてんの? 卒業してから?」  話題を変えようと、律との話を振ると、水野の表情がそれまでとは変化した。  どこか照れたように翼から視線を外し、綻ばせた口元が、幸せそうに弧を描く。 「……リッツのことは、いつかまた、時間のある時にゆっくりノロケたるわ」 「なんや……もったいつけて」  他人の事は、根掘り葉掘り聞いてくるくせに……と思いながらも、翼はもうそれ以上は聞かなかった。  水野の幸せそうな顔を見ていたら、なんとなく……羨ましくて。 「あっ、そうそう。翼って、もうサークルとか入った?」  今度は水野の方が話題を変えた。 「いや? なんも入ってないけど……」 「ほな、野球サークル入らへん?」 (──野球か……)  ──翼、大学入ったら野球やれよ。野球部じゃなくても、サークルとかでもええやん。  翔太の言葉が頭を過ぎった。 「でも、水野は野球部入らへんの? サークルなん?」 「うちの野球部レベル高いしな」と、水野は笑う。 「で、サークルもいくつかあるんやけど、どうせなら自分で立ち上げようと(おも)て。今、人数集めてんねん。翼、小学校の頃野球やってたって、翔太から聞いたで」 「ああ……うん……」 「ほな、ボクと一緒に野球やらへん?」  翔太と距離をとろうとして、やめてしまった野球。本当は元々好きだし、サークル活動ならやってもいいかもしれないとは、考え始めていた。  何もやらなければ、きっとどんどん運動不足になってしまう。翔太が帰ってきた時に、キャッチボールもできなくなってたら嫌だし。 (こないだみたいな、あのハードなキャッチボールは、絶対できなくなるな……)  そう思って、翼は口元を綻ばせた。 「ええよ」 「おっ! やった! ほなまた詳しい事は連絡する。ちなみに、ポジションの希望とかある?」 「やるなら、1番ショートで」  小学校の時も、それが翼の定位置だった。 「1番ショートな。OK」  その時、スマホのバイブ音が鳴って、お互い自分のスマホを取り出した。 「あ、ボクのや……ごめん、ツレと待ち合わせしてるんやった」 「うん」 「ほな、また連絡するわ」 「ああ」  慌てた様子で走っていく水野を見送って、翼は手にしたスマホに視線を落とした。  メッセージアプリを立ち上げて、翔太のトーク画面を表示させる。 (一応、知らせといた方がええよな)  水野に会った事。そして水野が立ち上げる野球サークルに入る事。

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