186 / 198

それから~epilogue(4)

『今、大学で水野に会った』  短い文章を入力して送信する。当然だけど、返事はすぐには返ってこない。  ──翔太は今、どこにいて、何してるんだろう。  すぐに返信がないなら、授業中かもしれないし、移動中かもしれない。  大学に行ってるかもしれないけれど、そうじゃないかもしれない。翼は、翔太の時間割までは把握していない。  分かっているけど、こんな時どうしようもない想いがこみ上げてくる。  全然寂しくないって言えば嘘になる。本当は……、  ──寂しくてしかたない。 「寂しい」と声に出したら泣きそうになるから、もう絶対に言わないと心に決めている。  一度だけ、どうしても我慢出来ずにその言葉を口にしてしまい、翔太の前で涙が止まらなくなってしまったからだ。  あの夜、初めて翔太と身体を繋げて、なんだかフワフワと幸せで、翌日の夜はもうしないと言いながらも、でも傍に居れば、お互いに触れたくて止まらなくて。  今まで、あれだけ距離を置いて、会えない日が多くてもそれが普通だと思っていたのに。ずっとずっと昔から、遠くから見ているだけでいいとか思っていたのに。  それなのに……。  少しの間でも離れるのが嫌だなんて、どんどん贅沢な欲求が膨らんでいってしまった。  翌日、翔太の両親が帰ってくる前に家を出て、約束通りバッテイングセンターに行ったけれど、やっぱり身体が重くて翼はあまり打てなかった。  翔太と身体を繋げたのは、結局あの二晩だけ。  それでも残された時間、少しでも一緒に居たくて、毎日逢った。映画を観たり、街をブラブラしたり、久しぶりに水族館なんかにも行ってみた。  水族館のそばの浜辺に降りて、二人して靴を脱ぎ、どこまでも続く波打ち際を歩いた。  三月の海は、まだ冷たくて人影もまばら。陽が沈む頃、どちらからともなく手を繋いでいた。  二人きりになりたいけれど、そういうホテルに行くには、お互いに懐に余裕が無い。 『オレ、バイトして金貯める』  翼の言葉に、翔太はブッと吹き出した。 『ホテル代、稼いでくれるん? 試合観にくる為じゃなくて?』 『だってさぁ~二人きりになりたいし』  間髪入れずに、翔太が『スケベ』と返してきた。 『オレがスケベやったら翔太は、どスケベやろ?』  膨れっ面でそう言うと、翔太が頬にチュッと音を立ててキスをする。 『ちょ……』  慌てて周りを気にする翼の肩を、翔太の腕が抱きよせた。 『誰も()らへんよ』  暮れかかる空に、白い三日月が浮かんでいる。  翔太は、ゆっくりと顔を近づけて、『今、二人きりやで』と囁きながら唇を重ねた。

ともだちにシェアしよう!