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それから~epilogue(5)
『そろそろ、戻ろか……』
軽く舌を絡め合って、翔太の方から唇を離した。
浜からすぐの最寄り駅は、とっくに通り過ぎている。
『うん』
平然を装って、翼は無理やりに笑顔を作った。
今歩いてきた砂浜を100メートルくらい戻ると、すぐに駅が見えてくる。
本当は、戻りたくない。帰りたくない。
本当は──もっとキスしたい。
翔太は明後日には東京に行ってしまう。こうしてゆっくり逢えるのも明日が最後なのだ。
『腹減ったな。食ってこか……』
そう言って、翔太はビーチサイドにある店の前で足を止めた。
アメリカンダイナーな雰囲気のハンバーガーショップだ。
『うん、オレも腹減った』
注文が入ってから成形するというパティを焼く匂いが漂って、翼もつい誘われてしまう。
翔太は、チーズバーガーと、ポテトとサラダとドリンクのセット。翼はプレートメニューのロコモコをそれぞれ注文した。
三月という事もあって、ビーチは人もまばらだったが、店内は平日だというのに殆どの席が埋まっている。
海を眺めることのできる窓側のカウンター席に、二人並んで腰掛けた。
もうすっかり陽が落ちて、遊歩道に設置されているフッドライトが灯って、ビーチを淡く浮かび上がらせている。
(なんか、デートみたい……)と、翼は思った。
確かにデートなんだけど。
チラッと隣を見ると翔太の前に置いてある巨大ハンバーガーが目に入った。
『すごいな、そのハンバーガーどうやって食べるん』
翔太が注文したのは、定番のチーズバーガーセットだけど、ハンバーガーの大きさが普通じゃない。
『そりゃ、かぶりつくしかないやろ?』
そう言って、翔太はハンバーガーを両手でギュッと押さえながら掴み、豪快にかぶりついた。
その横顔を見ていた翼は、思わず『めっちゃ、男らしいな』と笑う。
翔太は口の中をいっぱいにしたまま、『ん、まい(美味い)』とモゴモゴ言いながら、翼に視線をよこした。
口の周りにはみ出したソースをいっぱい付けている顔が子供みたいで、翼は笑いながら紙ナプキンを渡してやった。
翼のロコモコも、ボリューム満点だった。大きなハンバーグの上にトロトロの半熟目玉焼き。その上からかかっているソースとのバランスが絶妙で美味しい。
『一口、食う?』
そう言って、翔太はハンバーガーをトレイごと翼の前に寄せてくる。
『んじゃ、翔太もこれ食う? 交換しよ』
『うん』
トレイごと交換して、翼は、ハンバーガーを両手で掴み、少し躊躇して、翔太が齧ったところの横に口を寄せていく。
口を大きく開けて、あと少しのところで、『思い切りかぶりつかんと、こぼすで』と、横から声が飛んでくる。
『ぶっ、分かってるって、話しかけんとって』
笑いながらそう言って、翼は結局、翔太が齧ったところに豪快にかぶりついた。
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