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それから~epilogue(6)

『あはは、翼もソース付いてんで』  齧った途端に、どうしてもはみ出てしまうソースが口の横に付いてしまう。 『あぁ、難しいな、これ食うの』  そう言いながら紙ナプキンを取ろうとした翼よりも早く、横から伸びてきた翔太の指が口元を拭った。 『こういうのはお行儀良く食べるもんちゃうやろ』  翼は、『う、うん……そやな……』と応えながら、ソースの付いた翔太の指先を視線で追う。その行き先が気になってしょうがない。  そして翔太はその指を、躊躇することなくペロリと舐め取ってしまう。 『ちょ……』 『どうした?』  指を舐めながら、翔太は翼へ視線をよこす。 『いや……、なんでも……』  未だにそんな事くらいで顔が熱くなってしまう自分が恥ずかしいと翼は思う。それに指を舐める翔太の横顔が妙に色っぽくてドキドキしてしまうのだ。 『あ、そうか……』  翔太は納得したようにそう言って、翼の耳に顔を寄せ小さな声で囁いた。 『これも、間接キスやな』 『あ、アホ……』  余計に顔が熱くなり、翼は翔太から顔を背けてしまった。でも、そんなやり取りもすごく幸せで……  ──このまま時が止まってくれらたらいいのに……と、心の中で呟いていた。 『なぁ、腹いっぱいやし、もう少し歩かへん?』  店を出たらすぐ目の前に駅がある。そのまま階段を上りかける翔太の腕を、翼は思わず掴んで引き留めた。電車に乗ったら、そのまま家に帰るコースが決まってしまう。 『ええけど……また砂浜散歩する?』  問われて、翼は少し考えた。少しでも長く翔太と一緒に居たい。 『せっかくやし、もうひとつ向こうの駅まで歩かへん?』 『何がせっかくやねん?』と、翔太は笑ったが、すぐに『そうしよか』と同意してくれた。  二人は国道を家とは逆方向の西方面へ、ゆっくりと歩き出した。  風は冷たいけれど、歩いていたら寒くはない。  海岸沿いに、線路と並行している国道は、夜は車の通行量もそれほどではない。  歩道を歩く人も、殆ど見かけない。  線路の向こうから静かな波の音が聞こえてくる。  肩が触れ合うくらいの距離で歩いていると、お互いの手の甲も自然に時々触れる。それが徐々に手の甲から指先へと変化して、軽く絡め、やがてしっかりと繋ぐ。 『次の駅って、なんていう駅やったっけ……』  翔太が訊いた。 『……さぁ……? なんやったやろ……』  と、翼は応える。  さっきの海岸駅から西へは、あまり行ったことがない。二人とも駅の名前まで覚えていなかった。  この真っすぐな道がどこまでも続いて、駅なんか見えてこなければいい……なんて、心の奥でこっそりと願っていた。

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