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それから~epilogue(7)
暫く歩くと、交差点の案内標識に『一ノ谷町』と書かれていた。
そこを通り過ぎると景勝地として知られている公園が見えてくる。ここは源平の古戦場としても有名らしい。
松が茂る公園の入り口近くに『戦いの濱』と書かれた碑も立っている。
『なぁ、源義経の逆落としって、ここの事?』
碑を横目に通り過ぎながら、翼は昔から疑問に思っていた事を口にした。『ここの奥の山に逆落としって案内図も出てるけど、あれは〝鵯越の逆落とし〟やろ?』
翔太は『ああ、そうやな。俺もよう知らんけど』と苦笑して言葉を続ける。
『でも実は、馬で駆け下りた場所はどこやったのかは諸説あって、はっきりせんらしいで。一ノ谷の合戦というとこの辺りの話みたいに思うけど、実際はもっと広い範囲やねんて』
『ふーん、そうなんや。そんなん歴史の授業に出てけぇへんかったな』
『試験に出ぇへんからええねん』
確かに逆落としの地名になっている鵯越から、この一ノ谷町までは8キロ以上離れている。
『あ、そう言えば、その鵯越の展望台あるやん?』と、翔太が思い出したように言う。
『展望台? オレ、知らんけど……』
『小学校の時、遠足で行ったやろ?』
『覚えてへん……』
『高校の裏の道から登山口あるんやで? 明日行ってみる?』
翔太の提案に翼は目を丸くした。
『えー? 山登りすんの?』
『そんな、たいそうなもんちゃうって。展望台まで20分もかからんはずやで』
『義経の軌跡を辿る旅?』
『だから、旅ってほどの距離やないって』
何気なく始めた話題が、明日の約束になりつつあった。
その展望台からは街の中心部が全て見渡せるらしくて、翔太は東京に行く前に見ておきたいと言った。
山登りと思って、少し躊躇った翼だったが、翔太のそんな気持ちは自分にも何となく分かるような気がして、『ええよ』と答えた。
『そやけど……なかなか着かへんな、〝次の駅〟』
海岸駅から、もう30分くらいは歩いている。
『こんなに距離あるとは思わんかった……』
翼は内心焦っていた。〝もう少しだけ一緒に歩きたい〟ただそれだけだったのに。
気が付くと、区界の標識が見えてきた。
『うわ、区を跨いでしもたで……』
慌てている翼の肩を、翔太は笑いながら抱き寄せた。
『ホンマやな。思えば遠くに来たもんやな』
『……ごめんな。こんな歩く事になってしもて』
『ええよ。それだけ翼と長い時間一緒におれるんやから』
翼は『うん』と、小さく頷いて翔太の肩に頭を預けた。
進行方向を見遣ると、次の駅の灯りが遠くに見えてきていた。
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