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それから~epilogue(8)

 **  そして翌日、翔太と過ごす最後の一日。  朝起きた瞬間から、今日が最後なんだと思ってしまうと、胸が締め付けられる。  〝寂しい〟そんな言葉が頭の中で渦を巻く。口に出したらきっと涙が出てしまう。そう思った。だから、最後まで笑顔で過ごすために、その言葉は言わないようにしようと、翼はそう思っていた。  家まで迎えに来てくれた翔太と一緒に、登山道の入口があるという、卒業した高校の裏手へ向かう。  途中でコンビニに寄って、適当に昼飯を買った。  高校の裏手の住宅街の中を通っている道から、もう既に登山かと思うくらいの急な坂道が続く。  雑木林の横の道を暫く上がると、登山道の入口らしき場所が見つかった。   『ホンマにこの道であってんの?』  そう言いたくなるくらいに、背の高い雑草が茂り、木の枝が伸びて行く手を阻む、けもの道のように細くて急な斜面だった。 『一応、ほら、この階段も丸木で作ってるから、あってると思う』  翔太の言う通り、確かに時々階段状の部分があるが、その多くは朽ち果てていて、時々靴底が滑ってしまう。 『なんか、イノシシ出てきそう……』 『ああ、それは有り得るな。普通に住宅街にも降りてくるしな』 『ホンマにこんな所、小学校の遠足で行ったっけ?』 『登り口は何か所かあるし、もっと奥からのルートもあるし、登ったんはここじゃなかったかもしれん……』 『えー?』  そんな事を喋りながら、分岐点で少し迷ったりもしたけれど、展望公園らしき場所に辿り着いた。  20分くらいと言っていたが、実際は15分も登っていないと思う。だけど勾配がすごいせいで、着いた時には二人共じんわりと汗をかき、息切れもしていた。  そこは鵯越南端部分に当たる位置。眼下には街の中心部の全てが見渡せる。正面には大輪田の泊、現在の神戸港だ。遠くには神戸空港も薄っすらと見える。 『たぶん、今登ってきた道辺りが、逆落としの場所やと思う』と、翔太が言った。 『そうなん?』と訊き返すと、『知らんけど』と言って笑う。 『でも、ここから眺めて、それで義経が逆落としで攻撃を仕掛けようと逸る気持ちが何となく分かる気がする』  そう続けた翔太の横顔は、もう明日を見ているように感じた。  展望台となっているのに、ここにはベンチが二つと、尾根の先に古い東屋があるだけで、翔太と翼の他には誰もいない。昨日の一ノ谷町に比べたら有名じゃないのかもしれない。だけど、ちょっと自分達だけの秘密基地のように思える。 『ちょっと早いけど、昼飯にしよか』  そう言って、翔太は東屋を指さした。

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