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それから~epilogue(11)

『……泣きそう』  そう言ったくせに、翔太は嬉しそうに顔をくしゃっとして笑った。 『翔太も泣いたらええやん。オレばっか泣かされてて、ズルいわ』 『俺のは嬉し泣きやで』 『オレのも嬉し泣きや』 『翼のは、〝寂しい〟から泣いたんやろ?』 『翔太かて、さっき〝俺も寂しい〟って、言うてたやん』  言い合って、顔を見合わせて、二人同時に吹き出した。 『もう、翼に〝寂しい〟って言わせんようにする』  翔太はそう言って、翼の頬を撫で、唇に短いキスをした。 『もう、翼を泣かさんようにする』  唇を掠めるくらいの至近距離。  ──こいつ、いつからこんなカッコええ台詞、恥ずかしげもなく言えるようになったんだ? と思ったら、翼の方が顔が熱くなった。 『ホンマに?』 『約束する』  真剣な眼差しで、またカッコよく言われて、今度は胸が震えた。  また唇が重なり、翔太の舌が咥内へ潜り込んでくる。暖かく柔らかく、それは翼の舌を絡めとった。  展望公園は、二人が着いてからも、誰一人登って来ない。別のルートからもやってくる人の気配はなくて、静けさが満ちていた。  聞こえてくるのは、優しい春の風に吹かれて、樹木の葉が柔らかく擦れ合う音だけ。  久しぶりの深いキスを、二人は夢中になって求め合った。  お互いの身体を抱きしめ合い、何度も唇を重ねる角度を変えてお互いの熱い咥内を探り合う。少しくらいの間離れていても、その温度を忘れないように。  翔太の手が、背中から腰へと伝い下り、ジーンズの上から尻の割れ目をなぞると、翼は身体を震わせた。 『……翔太っ』 『翼のここに、挿れたい……』  耳元で囁くバリトンが身体を伝い、下腹を熱くする。だけど翔太はそれ以上求めてこなかった。 『次に逢う時まで我慢する。こんな所で誰かに見られて翼を泣かせたないし』  そう言って、柔らかく唇を重ねた。激しかったキスは、徐々に緩やかなものへと変わっていく。熱くなった身体を冷ますように。 『生殺しやな……』  唇を離して、翼が苦笑を零す。 『円周率、100桁まで言うてみる?』 『無理……』  翼はペットボトルのお茶を、ゴクゴクと音を立てながら、喉へ流し込み、深い息を吐いた。 『翔太、欲求不満になって浮気とかしたら、あかんで』  冗談のつもりで言ったけれど、心のどこかでは少しだけ心配もしている。 『アホ、そんなんするわけないやろ』  翔太はそう言って、笑い飛ばした。 『どんなに遠く離れていても、俺の気持ちは変わらんよ』  そして翼に視線を合わせる。 『翼のことが、世界で一番好きやから』  ──あぁ、こいつ、本当にいつから、こんな小っ恥ずかしい台詞、平気で言えるようになったんや。

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