194 / 198

それから~epilogue(12)

 だけど……あの時、翔太がそう言ってくれたから──────── ────────  正門から大学の中心部に広がる芝生に腰を下ろし、翼はスマホ画面に表示された時刻に視線を落とす。  翔太からのメールの返信は、まだこない。  もうすぐ二限目が終わる。混雑する前に学食に行かないと……そう思ったその時、手の中でスマホが振動した。  電話の着信だ。  画面に表示された相手の名前は〝翔太〟  胸がドキリと跳ねる。まさかメールじゃなくて、電話がかかってくるとは思っていなかった。 『もしもし、翼?』  応答ボタンをスライドさせて、スマホを耳に当てるより早く、翔太の声が聞こえてきた。 「翔太……どうしたん?」 『どうしたんって……さっきメールくれたから……』 「いや、電話かかってくると思わんかった」 『…………』  翔太から、言葉がすぐに返ってこない。なんとなく気まずくて言い淀んでいる空気を、翼は感じ取った。 「翔太?」 『良樹と、()うたん?』  ──今、大学で水野に会った。  翼が、さっき翔太に送ったメールに書いたのは、たったそれだけだった。    電話の向こうから聞こえてくる声だけで、翔太がなぜメールでなく、電話をしてきたのか、その理由が、その気持ちが、翼には分かった気がした。 「うん。水野がこの大学に入学してたって、知らんかったからびっくりしたわ」 『ごめん、言おうと(おも)とったんやけど……』  バツが悪そうに謝ってくる声に、翼は、クスッと小さく声を零して「心配やったんや?」と、返した。 『アホ、そんなんちゃうわ』  声しか聞こえないのに、なんとなく、今、翔太がどんな顔をしているのか分かるような気がする。 『……でもホンマは……同じ大学()うても、学部ちゃうし、広いし、できたら卒業するまで会わんかったらええのにって、ちょっと(おも)とったけど』  少し笑いが混じった翔太の声に、翼の顔が自然に綻んだ。 「それでな、水野が、野球サークルを立ち上げるから入らへんかって、誘われてんけど……」  電話の向こうから、ひゅっと浅く息を吸う音が聞こえてくる。 『──えっ?』  その後に翔太は驚きを隠せない声を上げた。 「それでオレ、OKしたで」  何故だろう。そんな翔太は、今までよりももっと身近に感じる。 『……そうか』 「心配?」 『……いや?』 「ホンマに?」 『俺、良樹のことも、翼のことも信じとぉから』 「ちょっとくらい心配してくれてもええで?」 『じゃあ、ちょっと心配』  クスッと笑う声が、翼の耳を擽る。 「〝じゃあ〟って、なんやねん」  翼も笑いを堪えて返す。 「でも心配せんでええよ、翔太」  翔太が言ってくれたあの言葉。今、すごく言いたくなった。 「どんなに遠く離れてても、オレの気持ちは変わらへん」  ──翔太のことが、世界で一番好きやから。  あの時そう言ってくれたから、気が遠くなりそうに遠い未来も、すぐそこにあるように思えた。  今は、寂しい。寂しいけど、寂しくない。  幼い頃から暖めてきた想いは、お互いの心を一つに結びつけた。  たとえこの先何があっても、もう離れない。一緒に生きる未来を、もう諦めたりしない。  きっとそれが、二人で交わしたあの約束を叶えることに繋がっていく。  ──卒業したら、一緒に住もう。

ともだちにシェアしよう!