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それから~epilogue(12)
だけど……あの時、翔太がそう言ってくれたから────────
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正門から大学の中心部に広がる芝生に腰を下ろし、翼はスマホ画面に表示された時刻に視線を落とす。
翔太からのメールの返信は、まだこない。
もうすぐ二限目が終わる。混雑する前に学食に行かないと……そう思ったその時、手の中でスマホが振動した。
電話の着信だ。
画面に表示された相手の名前は〝翔太〟
胸がドキリと跳ねる。まさかメールじゃなくて、電話がかかってくるとは思っていなかった。
『もしもし、翼?』
応答ボタンをスライドさせて、スマホを耳に当てるより早く、翔太の声が聞こえてきた。
「翔太……どうしたん?」
『どうしたんって……さっきメールくれたから……』
「いや、電話かかってくると思わんかった」
『…………』
翔太から、言葉がすぐに返ってこない。なんとなく気まずくて言い淀んでいる空気を、翼は感じ取った。
「翔太?」
『良樹と、会 うたん?』
──今、大学で水野に会った。
翼が、さっき翔太に送ったメールに書いたのは、たったそれだけだった。
電話の向こうから聞こえてくる声だけで、翔太がなぜメールでなく、電話をしてきたのか、その理由が、その気持ちが、翼には分かった気がした。
「うん。水野がこの大学に入学してたって、知らんかったからびっくりしたわ」
『ごめん、言おうと思 とったんやけど……』
バツが悪そうに謝ってくる声に、翼は、クスッと小さく声を零して「心配やったんや?」と、返した。
『アホ、そんなんちゃうわ』
声しか聞こえないのに、なんとなく、今、翔太がどんな顔をしているのか分かるような気がする。
『……でもホンマは……同じ大学言 うても、学部ちゃうし、広いし、できたら卒業するまで会わんかったらええのにって、ちょっと思 とったけど』
少し笑いが混じった翔太の声に、翼の顔が自然に綻んだ。
「それでな、水野が、野球サークルを立ち上げるから入らへんかって、誘われてんけど……」
電話の向こうから、ひゅっと浅く息を吸う音が聞こえてくる。
『──えっ?』
その後に翔太は驚きを隠せない声を上げた。
「それでオレ、OKしたで」
何故だろう。そんな翔太は、今までよりももっと身近に感じる。
『……そうか』
「心配?」
『……いや?』
「ホンマに?」
『俺、良樹のことも、翼のことも信じとぉから』
「ちょっとくらい心配してくれてもええで?」
『じゃあ、ちょっと心配』
クスッと笑う声が、翼の耳を擽る。
「〝じゃあ〟って、なんやねん」
翼も笑いを堪えて返す。
「でも心配せんでええよ、翔太」
翔太が言ってくれたあの言葉。今、すごく言いたくなった。
「どんなに遠く離れてても、オレの気持ちは変わらへん」
──翔太のことが、世界で一番好きやから。
あの時そう言ってくれたから、気が遠くなりそうに遠い未来も、すぐそこにあるように思えた。
今は、寂しい。寂しいけど、寂しくない。
幼い頃から暖めてきた想いは、お互いの心を一つに結びつけた。
たとえこの先何があっても、もう離れない。一緒に生きる未来を、もう諦めたりしない。
きっとそれが、二人で交わしたあの約束を叶えることに繋がっていく。
──卒業したら、一緒に住もう。
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