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それから~epilogue(13)

 それから────────  ────5年後。  長期ロード(*作者コメ欄参照)が終わり、一か月ぶりのホームゲームが行われている甲子園球場。  一塁側スタンドで、翼はカメラを構えていた。  ファインダーの中に捉えているのは、マウンドに立つ翔太。  プロ入り二年目で、今シーズンから一軍に昇格し、今日初めて先発を任された。  縦縞のホームユニフォームが似合ってる。  一点リードで迎えた、9回表、相手チームの攻撃。  ツーアウト、ランナー一塁。  翔太は、マウンドの土をならしながら帽子をかぶり直し、フーッと長い息を吐き出した。  その仕草は、昔からずっと変わらない。  そして前を向き、キャッチャーのサインに頷いた。  セットポジションからの流れるような投球フォーム。ひとまわり大きくなった身体がしなやかに動く。そしてその指先から白球が放たれた。  翼は、その動きを追いかけて、夢中でシャッターを切る。  持ち前の剛速球が、打者の胸元を抉るようにインハイに入っていく。バッターはのけぞり身体の軸がぶれ、バットを振る事ができない。 「ストライク! バッターアウト!」  球場全体が割れんばかりの、地響きのような歓声に湧く。  9回裏のスコアボードに×の印が付いた。0対1で試合終了。  翔太が、初先発の大舞台を、完封勝利で飾ったのだ。 「ようやったで! 柏木!」  どこかで誰かが叫んだ。  翼も、思い切り叫びたい衝動に駆られる。世界中に自慢したい。  ──アイツが、オレの好きなやつ!  だけど、それは胸の内でしか言えない言葉だ──今、この場では。  その代わり、翼は立ち上がり、大声で名前を叫ぶ。 「翔太────!」  どんなに大声で叫んでも、大歓声で盛り上がるスタンドからでは、翔太には届かない。  それでも、チームメイトにもみくちゃにされながらハイタッチをしている翔太を遠くから見ているだけで、気持ちがいい。  ヒーローインタビューに照れた笑顔で応える翔太が誇らしい。  ──やっと、ここまできた。  本当にいろんな事があったけれど、4年間の遠距離を乗り越えて、お互いにそれぞれの夢を追いかけた。  翼は、無事母校に赴任する事ができて、一年間の初任者研修も終わり、今年からは担任を受け持っている。  大学を卒業してからも時間が合わなくて、なかなか逢えない日々が続いたけれど。翔太がくれた、たくさんの言葉があったから、信じることができた。  気が遠くなりそうなくらい遠いと思っていた未来は、もう今、ここにある。

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