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【異世界トリップオメガバース】弓葉
塾の帰り道。近道をしようと神社の横を自転車で通り抜ける。夜の神社ってだけでも怖かったのでスピードを出していた。すると、目の前が真っ白い光に包まれる。
「車?!」
ヘッドライトが体を包み運転手の人と目が合った。ハンドルを慌てて切る様子がスローモーションで見えたけど、自転車に衝撃が走ったのが腕に伝わってくる。
酷く甘い匂いがした――
***
コツン、コツン。石のようなものが僕の頭に当たる。振り払おうと手を伸ばせば動物の毛の感触がした。
「あああああああ!!」
食われると思って飛び上がれば、馬……のような生き物がいた。
「頭がバグった」
そう思うのも仕方がない。だって僕の身長を遙かに超える大きな生き物。人ではない事が明らかに分かる馬の下半身。僕がいた世界にこんな生き物は存在していなかった。馬の蹄を鳴らしながら近づいて来られると、僕は怖くてその分後ずさる。
「逃げないで」
言葉は絶対理解できないと思ったけど不思議と分かった。
「じゃあ、それ以上近づいて来ないで」
僕の言葉が通じるなんて分からないけど言ったらソイツは立ち止まった。一定の距離を保ってグルグルと僕の周りを回り出す。すごく僕に興味があるみたいだ。
目を離したくなくて一緒にグルグルと回る、回る、回る……
「ふぁあぁ……目がまわっ……」
ドスンと尻餅をついた。ソイツが心配そうに駆け寄ろうとしたが、僕が『近づかないで』と言ったせいで足踏みしている。地面を強く抉る様子は、ソイツの心の中を現わしているようだった。
「ジッとしとけば平気だから」
空を見上げて気づいた。太陽がある。昼間だ。僕がいた世界では『夜』だったのに。そんな事を考えていたら急にソイツの顔が現れた。
「うわっ!!」
垂れる髪を避けていると不意にソイツの右手が僕の頬に触れた。その瞬間ソイツは苦しそうに右肩を抑えだす。急な出来事に心配して腕を確認すれば、そこには馬のトライバルタトゥーが浮かび上がっていた。
***
「マッティア?マッティア〜?!」
茂みに隠れた森の中でマッティアを探していた。マッティアは僕とあの日出会ったケンタウロスのリュカとの間に産まれた子。リュカに似てケンタウロスの姿をしている。リュカが森の自警団の仕事をしている間、子守をしていたんだけど……
「マッティア~!!僕を置いて走っちゃダメって言ったでしょーーー!!」
少し離れた場所で飛んでいたチョウチョを見つけたマッティアは僕を置いて走り去ってしまったのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
森の中は入り組んでいてマッティアの小さい姿を見つけるのは一苦労。だからといって、縄を付けるのもかわいそうだし……というか引きずられそう。
「碧馬 ?」
「リュカ!!」
弓矢を持ったリュカが自警団の仲間達と一緒に現れた。
「マッティアがチョウチョを追いかけて行っちゃったんだけど見てないよね?」
「ごめん、見てない」
「そっか……ありがとう。もう少し探してみるよ」
「私も一緒に探そうか?」
「いやいや、いいよ。お仕事中だし」
「少しだけなら大丈夫。それに見当たらない方が不安だし。乗って?」
リュカが腰を下ろして座り込む。背中に乗れって言っているのだ。僕は少し迷ったが時間も無いので仕方なくリュカに跨がり腰に抱きつくとリュカは立ち上がった。
「行くよ」
「うん」
リュカが立ち上がると景色が大きく変わった。そして走り出すとすごいスピードだ。乗っている間、馬の背中に乗る用の鞍が無いのでリュカの背骨がお尻を刺激していた。しばらく森の中を駆け抜けていると、開けた場所に辿り着く。
「マー!!」
「マッティア!!」
僕はすぐにリュカから飛び降りて声が聞こえてくる崖ギリギリまで近づいた。すると、足下の崖にしがみつくマッティアが見える。その下は川が流れていてここから落ちたら間違いなく死ぬと分かった。僕は必死に手を伸ばしマッティアも小さい腕を伸ばす。リュカが縄を持って近づいた瞬間、地面が大きく軋めき地面が傾いた。
「……?!」
「碧馬!!」
「マー!!」
マッティアが僕に飛びつき、僕は抱え込む。リュカが僕の腕を掴みそこね服が破けた。僕の腕に現れた馬のトライバルタトゥーにマッティアがしがみつき、もうダメだ、と思った瞬間――リュカが飛んだ。
僕の体よりも大きいリュカは落ちていく僕に追いつき、奪い去るように抱き締められた。そのまま崖を転がり落ちるように下り、ガリガリと岩肌がリュカの蹄を傷つけ石の破片が僕達を襲った。
バシャン……!!大きな水飛沫を上げ川に落ちた。リュカの顔は傷だらけで血が滲み出ている。
「碧馬、マッティア!」
リュカは不安そうに僕達が無事なのか確認する。マッティアは無邪気に水で遊ぼうと僕の腕からまた飛び出した。その様子を見てリュカは、フーと深い息を吐く。
「碧馬、お願いだから勝手な行動をしないで」
「だって、これは夢でしょ。多少無茶したって大丈夫だよ」
「違う、碧馬。夢じゃないんだ、ここも現実なんだよ。私は運命の番を無くしたくない」
リュカは優しく僕に笑いかけ水遊びしていたマッティアと一緒に抱き上げる。マッティアはそんな僕達の会話に気づくことなく僕を求めた。小さい手で「マー」と呼ばれると嬉しい。
「でもね、リュカ。人間界 にも運命の番がいるんだ」
「碧馬……」
本当は帰れる場所を知っている。マッティアを探す時に見つけた大きな洞窟。その中にある湖には人間界の様子が映っていた。思わず飛び込みたくなったけど、マッティアを置いて向こうには行けないし、連れても行けない。
「でも、マッティアがいるし大きくなるまではここにいるよ」
マッティアの手が僕の口を塞いだ。まるで、そんなことを言うなというように。でも、あの日嗅いだ匂いをもう一度嗅いでみたい。
Fin.
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→弓葉(@yumiha_)
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