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【結婚前夜、泉のほとりで】睦月なな

井ノ又碧馬(いのまたあおま)、17才。 僕は明日、結婚します。 満月の夜、明日のことばかり頭に浮かんで、眠れなくなってしまった。 僕の恋人はケンタウロスのリュカ。 男で、アルファ。 一方、僕はオメガ。 異世界に飛ばされた僕は、運命の番を見つけたのだ。 隣で寝ているリュカは、褐色の逞しい体に白銀の長く美しい髪。 僕がもぞもぞと動いたからか、リュカのエメラルドグリーンの瞳が開いた。 「碧馬?眠れないのか?」 「うん……明日のこと、緊張して……」 「何も怖いことなんてない」 「でも、やっぱり眠れない……ねぇ、リュカ、お願いがあるんだけど……」 「……何だ?」 僕はお願いを言った後、リュカは僕を背中に乗せて、満月が照る森の中を歩いた。 暫くすると、月光に照らされた泉が姿を現す。 僕はこの泉が大好きだった。 リュカの背中から降りて、泉の水を掬うと、星も一緒に掬ってしまったかのようにキラキラと水が輝いていた。 「綺麗……」 僕は服や下着を全部脱いで、泉の中に入った。 泉の中は結構深い。潜って、水面を見上げると、月の光が一筋差し込んで、星の中を泳いでいるような感覚になった。 その光を辿るように浮上し、水面から顔を出しすと、泉の近くで前足と後ろ足を折り畳むようにして座っているリュカと目があった。 すいすいと近くまで泳いでいく。 「碧馬の泳ぎは美しいな」 「そうかな」 僕は平々凡々な高校生だったけど、泳ぎだけは得意で、よく川や海で泳ぎに行った。 「初めて碧馬と出逢った場所もここだったな」 「あれは……恥ずかしかった」 登校時に交通事故にあってしまい、その衝撃で異世界に飛ばされてしまった。 気づいた時には、この泉の中にいた。 学生服はずぶ濡れで、気持ち悪かったから服や下着を全部脱いでいた。 そのときにリュカに出逢ってしまったのだ。 「こんなに美しい者が運命の番だなんて、俺は本当に幸せ者だと思った」 美しいなんてセリフは、僕には似合わなくて、リュカの方が似合っている。 リュカは自分の右肩の馬の印に指を這わせ、この印は運命の番が現れたときに浮かび上がる印なのだと教えてくれた。 ―――― 「元の世界に戻して……」 僕は泣きながらリュカに頼んだけど、それだけは許してくれなかった。 「運命の番を見つける……それはケンタウロスにとって、使命なのだ。中には一生運命の番と出会えない者もいる」 元の世界。 僕の世界は、ずっと一人ぼっちだった。 両親を小さい頃に亡くし、アルファの親戚の家に引き取られた。けど、たった一人突然変異のオメガだった僕は煙たがれ、疎まれた。 それでも、こんな見ず知らずの世界よりマシだ。 愛なんて知らない、恋なんて知らない。 ましてや、運命なんて……信じない。 リュカはケンタウロスで、アルファで……僕は人間で、オメガ……。 種族も第二性別も違うのに、上手くいきっこない。 もし、リュカと一緒になっても、リュカは僕のことを飽きてしまう。 そう思っていた。 ―――― 泉から上がって、勢いよくリュカの首に掴まって抱き締めた。 「冷たい?」 僕は濡れた体をリュカに擦り付ける。 「今夜は特に暑いから、気持ちいい。それに碧馬の肌は柔らかくて、いい匂いがする」 僕の首筋にリュカは顔を埋めた。 性フェロモンっていうのかな。僕はいい匂いがするらしい。 僕らはどちらからともなく唇を差し出し、重ね合わせた。 ―――― 「元の世界に帰りたい?」 しばらくして、魔導師のマオというケンタウロスと知り合いになった。 「帰れるよ」 「え!?どうやって帰れるんですか!?」 マオはナイフをひとつ取り出した。 銀色のナイフがキラリと光り、その不吉な輝きに、嫌な汗が背中を伝った。 「これは……」 「お前達は今、運命という鎖に縛られている。リュカを殺せば、その鎖は切れて、お前を元の世界に戻してやれる」 「僕が、リュカを……殺すってこと……?」 マオはニヤリと笑って、銀のナイフを僕に握らせた。 満月の夜、リュカは木の下で眠っていた。 僕はゆっくり銀のナイフの刃先をリュカに向けた。 「碧馬、会いに来てくれたのか?」 リュカは目を閉じながら、そう話しかけてきた。 思わずナイフを後ろに隠した。 「何で……分かったの?」 「匂いで分かる」 エメラルドグリーンの瞳が僕を捉えた。 「碧馬、夜這いにきたのか?それとも……闇討ちか?」 バレてる……。 僕は後ろに隠していたナイフをリュカの前に出した。 「お願い……元の世界に戻るには、これしかないんだ……」 僕は殺そうとしているのに、リュカの表情はとても穏やかだった。 「どうせ、マオに何か言われたんだろうが……、碧馬は俺を殺せない。絶対に後悔する」 静かに言い当てるリュカの言葉に、僕はイライラが募る。 「リュカは……僕のことなにも知らない癖に、どうして、いつもいつも分かったような口を聞くんだ……!」 「分かるさ。運命の番なのだから」 「運命なんて知らない……!リュカなんて大っ嫌いだ!」 そう声を荒げると、リュカは立ち上がり、静かに僕を抱き締めた。 「殺したければ、殺せばいい」 刃先とリュカの肌との距離はあと数センチ。 今なら刺せる。 今なら殺せる。 今なら、帰れる。 「碧馬、俺はお前に殺されても愛してる」 何度も何度も繰り返し、捧げられた「愛している」という言葉。 信じないと言い続け、拒否していた。 リュカなんて嫌いなのに、どうして、その言葉を信じてしまいそうになるんだろう。 どうして、その胸に体を預けたくなるのだろう。 僕はナイフを振り上げ、 地面に落とした。 「リュカ……本当に、僕のこと、ずっと愛してくれる……?」 「碧馬、俺に愛されることを恐れないでくれ」 リュカは僕を腕で抱えながら、キスをした。 逞しい腕に包まれて、初めてちゃんと愛されていると思えた。 ―――― 「ん……っ、ふぁ……あ、ひゃぁ……」 リュカに首筋を舐められる。 自分のものではないような声が溢れてしまう。 「碧馬……したくなってきた……」 リュカに耳元で誘われる。 水に濡れた体が火照ってきて、自分のモノがだんだんと天を仰いでしまう。 きっとリュカも興奮してる。 馬の部分であ下半身をちらりと見てみるも、この位置では分からない。 僕は草むらに四つん這いになって、リュカを迎え入れる。 リュカは下半身が馬なので、いつも覆い被さるように僕を攻め立てる。 僕の孔にリュカの太い指が二本入り、濡れた音が夜の闇に響く。 こりこりと弱い場所ばかり責めてくるため、つい甘い声が漏れてしまう。 「んぅ……あっ……そこ、ばっかり……ダメ……」 「ダメと言いつつ、濡れてるな」 クスクスと笑うリュカの顔は見れないけど、絶対に意地悪な顔をしてる。 「そろそろいいかな……」 孔から指を引き抜くと、リュカは俺の体の上に乗る。 潰さないように、少しだけ体重をかけて。 月の光も遮られ、真っ暗な闇の中、僕はお尻だけを突き上げる。 リュカの(たかぶ)りが僕の中に押し付けられる。 推し進めるように、中を押し広げられ、奥まで広げられていく。 「ぁああぁ………!」 「碧馬……大丈夫か?きついか……?」 リュカの指先が僕の唇をなぞる。 僕はその指先をちゅっと吸うと、「大丈夫……」と答えた。 それに応えるように、大きな質量のモノが僕の中を行ったり来たりしている。 僕の気持ちいいところを擦りあげてくる。 「ひぁ……っあ……ぁん……リュカぁ……気持ちぃ……」 「碧馬……俺も気持ちいい……」 ピストンがどんどん早くなり、射精感が強まっていく。 せりあがる白濁を止められない。 「もう……っ出ちゃ、う……リュカ……!」 「俺も……もう限界……っ出すぞ……」 僕の中に熱い白濁液が注がれる。 量が多く、お腹が熱い。 僕も我慢できず、草むらに勢いよく白濁液が飛び出した。 ズルリとリュカのモノが引き抜かれると、入りきらなかった白濁液が僕の孔からこぼれでる。 僕は力尽きて、草むらに横になった。 汗で張り付いた前髪をリュカが手で払いのける。 「碧馬……」とリュカの逞しい腕で抱き起こされ、額に小さくキスされる。 「碧馬……幸せにする……必ず、もう俺から離れたくないと思うくらいに」 「うん……」 リュカ、あなたに出会えて良かった。 あなたと運命で繋がっていて、良かった。 ―――― 結びの儀をしてから、三年後。 この世界の生活にも、すっかり慣れた。 「碧馬、森の警備に行ってくる」 「うん。行ってらっしゃい!」 リュカが僕の頬にキスをする。 いつもの挨拶。 僕の足に小さなものがぶつかってきた。 ひょこっと顔を出したのは、ピンクがかった白銀の髪、リュカと同じエメラルドグリーンの瞳。 「ママ、おはよぉ!」 「マッティア、おはよう。パパにもおはようって言って」 僕が小さなケンタウロス、マッティアを抱きあげる。 僕とリュカの息子のマッティア。この前、3歳になったばかり。 「パパも、おはよぉ」 「マッティア、おはよう」 「パパ、きょうもおしごとぉ?」 「あぁ。昼頃には戻ってくるよ。マッティアも来るか?」 リュカがマッティアの頭をくしゃくしゃと撫でながら聞くと、マッティアは「うーんとねぇ……」と少しだけ悩むとにこりと笑って、 「ママといっしょにいる!」 と元気に答えた。 「……そうか」 リュカはちょっと寂しそう。 「マッティアは本当にママが好きだな」 「うん!ママだいすきぃ!!あっ、パパもねっ!」 付け足すような言い方に、思わず僕とリュカは笑ってしまう。 運命なんて信じられなかった。 ひどいこともたくさんした。 けど、リュカはそんな僕に手を差しのべてくれた。 その手をとってよかったと、僕は今、心の底からそう思う。 終 【感想はコチラまで→】睦月なな@mutuki_7_7

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