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襲撃⑤
「まったく―――ナギってば偉そうにミストにあれこれ言わないでよね……まあ、シリカ様の命令に背く訳にはいかないし、言うとおりにするけどさ~……ほら、マコトの恋人くん……ミストの方に腕を出して!!」
ミストが、ふてくされた表情を浮かべたまま僕へと近づき、杖の先をナギという男から短剣で傷つけられ怪我をしたせいで血まみれになっている腕の部分にかざす。
「ΘΚΨΦβδζΩыζ―――!!」
そして、ミストが何やら訳の分からない言葉を発すると少し経ってから僕の腕にあった深めの傷口が徐々に塞いでいき――やがて僕を今まで散々苦しめていた強烈な痛みもなくなっていく。
その事に対してホッと安堵していたのも束の間、
―――ドォォォォンッ!!
僕らがいる藁の家の外から―――周りが揺れるくらいに大きな音が聞こえてきて、慌てて僕と誠は外へと目を向ける。
―――《ゴブリン》と《オーク》の集落地が真っ赤な炎によって燃えている。
先程までは燃えていなかった筈なのに、いつの間に炎に包まれたのだろうか―――。
最初、この集落地に来て初めて出会った《ゴブリン》や《オーク》―――それに、ここにはいない坂本先生や青木や―――僕の半身ともいっていい存在の想太の笑顔が呆然と窓の外を見つめるしかない僕の頭によぎり、ガタガタと小刻みに体を震わせてしまう。
「なっ……何で、何で……ゴブリンやオーク達は何も悪くないのにっ……ただ平穏にここで暮らしていただけなのに……何で、こんな酷い事を――――っ!?」
「―――大丈夫だ、きっと―――アイツらなら大丈夫だ――」
どうしようもない不安な気持ちと、とてつもない怒りとを同時に抱いているのを悟ったかのように、隣にいる誠が―――恐怖と不安と怒りとで震えている僕の手をギュウッと握ってくれた。
その時―――――、
「ナギ、ミスト…………命令通り、《ゴブリン》や《オーク》どもの村は燃やした―――今すぐ王宮へ帰還せよ、との第二王子殿の御命令だ……それとも、お前達まで消し炭になりたいのか?」
「あ、サン……ねえねえ、聞いてよ―――ナギったら、マコトの恋人くんに怪我させちゃったんだよ~……まあ、優秀なミストが治してあげたけど~……さあ、早く王宮に行くよー……ねえ、マコト……それにマコトの恋人くん?」
「おいおい、その嫌そうな顔は何だよ……言っておくが、てめえらが王宮に来ないってんなら―――サンが抱えてきたこのニンゲンどもを酷い目に合わせてやるからな!!」
急に現れ、そして何も悪いことなどしていない《ゴブリン》や《オーク》達の村を焼くという仕打ちをしてきたエルフ達の言葉を聞いて、憤ったものの―――サンという一番最後に現れた金髪碧眼で雪のように真っ白な透き通る肌を持つリーダーらしきエルフが抱えている青木や坂本先生、それに想太を一気に人質としてとられてしまい、為す術のない僕らは仕方なく彼らが言うミラージュの《王宮》とやらに一緒に行くしか出来ないのだった。
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